屋台テント合戦④
京美が持つ大皿には朱色に輝くプミミンの卵。屋台の周りに集まる人集りに向けて「ほらほら! 良く見て頂戴!」と披露する。
『あれは何なの?』
『さあ? 何だろうね? 綺麗な色をしているけど……』
見慣れない色をした調理済プミミンの卵。
それに興味津々になった人集りはざわつき出した。
『何? 何? なにか珍しい物でもあるのかい?』
後方にいた人達も背伸びをして京美の持つ大皿の中を見ようと必死になった。
(しめしめ。皆、興味を持ち出したね……作戦成功だよ!)
実はプミミンの卵をお客さんに見せるというのは京美の作戦なのだ。
マスターに調理済みのプミミンの卵を見せてもらった時、京美や村田は「イクラ」の様だと例えたが、元々こちらの世界の住人であるティムやデカ達は見慣れない色に驚いていた。
濁った池の色の卵。それが朱い宝石のように様変わりしていたら、そのような反応になるのも頷ける。
そして、それが意味する事。
それはマスターが作った珍味はこちらの世界ではかなりレアであるという事だ。
だったら、それも客寄せに利用する手は無い!
京美はそう判断した。
(予想通り! 人は集まりだしたね……。最初の陰口は想定外でかなりムカついたけどさー……)
京美は皿を持っていない方の手で痛む胃の辺りを擦りながら、マスターの手元をチラリと確認した。
鉄板上たっぷりと満たされたプミたま焼きの液は熱が伝わり、端っこの方からヤワヤワと固まり始め、それと同時にふんわりと甘い香りが辺り一帯に漂った。
冷やかし目的で集まり野次を飛ばしていた連中もその香りに驚き、自然に口を噤むとゴクリと唾を飲み込んでいる。
『なんだよ……あんなグチャグチャなのに、匂いは結構美味そうじゃないか?』
『そうね、それにあの綺麗な食材をどうするつもりなのかしら? 気になるわ』
集まっている人達の反応が変わり始めた。
京美はタイミングを見計らい、プミミンの卵を手に取った。
「さぁっ! ここからが本番だ! 見なきゃ損損寄っといで!!」
そう言うと同時に鉄板上の窪みをめがけて、素早くばら撒いていく。次にアリナはマスターに二本の千枚通しを手渡した。
京美の呼び掛けに感化されたマスターはその千枚通しをチャキンチャキンと鉄板にぶつけて音をたて楽器に見立てて呼び込みをしてみせた。
「そんなに遠くて良いのかい!? もっと近くに寄っといで!」
「なによー、マスター客寄せ上手じゃない!?」
「いやぁ、京美さんには敵いませんよ」
二人は顔を見合わせて笑いあう。
「この世で一番美味しいプミたま焼き! 皆寄っといで!! 損しちゃうよ!!」
今の呼び込みは二人の物ではない可愛らしい声。そして、お客さんを呼び止めるしっかりとした大きな声だった。
京美とマスターは顔を見合わせたまま、今度は目を丸くして驚いた。今の呼び込みはアリナが行った物だったからだ。
京美とマスターに見つめられたアリナは照れて頬を赤く染めたが「プミたま焼きとっても美味しいよ!」と呼び込みを続けた。




