屋台テント合戦①
大風の日。
とうとうその日がやってきた。
フタツ面の森の火災の後は痛々しく、燃え尽きてしまった木の幹や枝は殆どの葉を落とし黒く変色し、其処に一歩足を踏み入れると焼け焦げた木々の匂いがまだするほどで火災から日が経っていない事の証明になっている。
森にしては明る過ぎる空を仰いでみる。
そこには陽を隠そうと懸命に伸びる針金のような細い枝が幾つも広がるが、その向こう側にはハッキリと青い空が見えていてそれはまるでステンドガラス。
形骸化したフタツ面の森はスッキリとしてしまい、以前の様なミステリアスで重厚な空気は微塵も感じさせない場所になってしまった。
それでもフタツ面の森にはバンガ、ミャラッカの両国民が大勢集い、かつてないほどの賑わいを見せていた。
燃え残った枯れ木の巨木を中心にステージがあり、その周辺をぐるりと囲むように沢山の客席が用意されている。
既に席に座る者。
『早めにいい席取っちゃいましょう!』
『そうだな、何せあの放浪サーカス団のパフォーマンスだしな!』
国を越えコミュニケーションの輪を広げる者。
『バンガではどんなファッションが流行っているの?』
『そんなにミャラッカと変わらないと思うわよ』
ステージそっちのけで屋台巡りを始める者。
『このバンガの焼き肉抜群に美味いな!』
『いやいや、こちらのミャラッカポテトの方が美味いだろう?』
国民達、各々が祭りを楽しんでいる中、京美とアリナはマスターの屋台を手伝っていた。
「ねぇマスター、早くしないと完全に出遅れてるよ。ウチラ」
京美はライバル店を落ち着きなくキョロキョロと見回しながらマスターを追い立てた。
「ハハ……京美さん。あ、焦らせないでください……!」
マスターはプミたま焼きの素材を大きなボールに投入し、ぐるぐるとおたまで回し始めた。
「マスター、手が震えてる」
アリナは調理を急ぐマスターの手の震えを指摘した。
「わかってます! アリナさんもちょっと静かに見守ってください……!」
国の代表になったコック達が慣れた手付きで調理を始める中、石造りのマスターは慣れないプミたま焼き作りに手こずっている。
その様子を見て左右のライバル店のコック達はプッと吹き出した。
「あんた何処の料理人か知らないが、そんな手付きで本当に大丈夫なのか?」
こんな事を言うのは右手側テントのコック。
スライスした魚を素早く串に通しながら、からかってきた。
「ムッ!」
京美、アリナ、マスターは揃って右手側のコックを睨み付けた。
「悪かった悪かった、あんまり睨むなよ。あんた達があんまりモタモタしてるから、恥をかかない様に助言をしただけさ!」
「……。」
京美達はそのまま無視をして調理を続けようとした。
しかし、今度は左手側のテントのコックが口を挟んできた。
「いーや、謝る必要なんて無いと思いますよ? 私も同じ事を思っていましたよ。本当に貴方達は国で選ばれた料理人なのですか? そんな風には全く見えないんですよねぇ……品がありませんし……。それに、そんな鉄板を私は見た事がありませんが、一体何を作るんですか?フフッ」
「あ〜ん!? なんだと!?」
コイツら、喧嘩を吹っ掛けてきやがった!
腕まくりをして京美は左右の屋台に乗り込もうとする。
そんな京美の腕を必死に引っ張っるマスター。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとまって京美さん! ここで喧嘩をしてしまったら、出店の許可が取り下げられてしまいます!」
「でもっ! ムカつくじゃん!?」
「それは、そうですけど……!」
怒りがおさまらない京美にアリナは黙々と作業を続けながら言う。
「大丈夫だよ、キョーミ。プミたま焼きは美味しいからきっと負けないよ」
「……そうですよ! 京美さん。アリナさんの言う通りです! 絶対に見返してやるので今は見守っていてください!」
「……マスターがそう言うのなら、我慢するよ……」
「ありがとうございます、緊張もお二人のお陰で解けてきましたよ!」
マスターはさっきとは別人の様に、シャキシャキとした動きで調理に取り掛かり始めた。




