トコミチ
ヤーシャ族が向かっている場所それは見覚えのある場所だった。
少し先に見える鬱蒼とした森。
(フタツ面の森?そこにヤーシャ族のアジトがあるの?)
そういえば狩猟が得意なんだっけ?
肉も自分達で調達した物なのだろう。
【狩猟で得た獲物は生のまま食す】
【生のまま食す…】
【食す…】
ヤーシャ族の事を考えてたら
アリナの読んでくれた文が頭を繰り返し横切った。
途端に溢れ出す脂汗。
(何を大人しく担がれてるんだ、私は!)
「離せ!この力馬鹿!」
「おわ!なんだこの女、急に暴れだしやがって」
「私を食べる気だろ!? 肩こりも腰痛もあるから、きっと不味い! だから離せーーー!!」
足をバタバタさせる京美。
「そうだな…食いはしねーよ、聞きたいことがあるだけだ…」
フードの男は言った。
(ホッ…でもなんか、ショック……不味そうなんだ?私……)
フタツ面の森に入ると、一気に光が届かなくなる。
ここに来た時は気づかなかったけど
こんなにも不気味な所だったんだ。
こんな所に治癒草を探しに来てたアリナ…
さぞ不安だったろうね。
森に入り暫く進むと枯れかけている大樹が見えて来た。
大樹の周りには簡易的に設置されたターフや焚き火の跡
弓や槍などが立て掛けてある。
そして狩りで得た獲物の肉、皮などが枝に吊るされていた。
京美はドサリと皮の敷物の上に落とされた。
「痛っ!」
ヤーシャ族達はそれ程人数は居らず、
先程家を囲んでいた人数
つまり10人程度の人数で形成されているアジトだった。
小柄の男を中心に、ヤーシャ族が円陣を組み
黒い小さな角、2つの黄色の角、赤の一本角など
個性的な角がそれぞれあった。
(って事は白の一角ってのはー、あの御頭がー……)
小柄の男はパサっとフードを外した。
思ったとおりに白い一本の角が現れた。
しかしそれよりも京美は別の事に興味をもった。
(御頭……メッチャクチャイケメンじゃん!!トコミチみたい)
※※※
トコミチとは日本の俳優、長身で顔がとても小さい
朝のニュースではクッキングコーナーを担当しており
料理の仕上げに一つまみの塩を高い所から
そっと振りかける。
視聴者からはスタジオの空調で塩が流されて
かける意味がないのではないか?
と心配されたりする。
※※※
「それで、御頭この女の何処に興味持ったんです?」
赤い一本角の細身のヤーシャ族が聞く。
「この女自体には興味はねーよ」
(ガクッ…)内心ちょっとガッカリする京美。
「それじゃぁ、なんで連れてきたんです?」
力馬鹿のヤーシャ族が聞く。
「この女の着てる皮の柄見てみろよ……」
ヤーシャ族達が京美のヒョウ柄トップスに注目する。
『その模様は!』
『嘘だろ…』
騒ぎ出すヤーシャ族達。
「女、それを何処で手に入れた?」
白の一角の金色の目がギラリとする。
「何処って、つまむらかエオンかどっちかで買った物だけど」
正直に答える京美。
「女、適当な事を言っても俺は誤魔化せねえぞ」
「いや、適当なんて言ってないし」
白の一角は髪をかきあげた。
「シラをきるなら、直接試させてもらう…
お前ら、女をタムトタムトの巣に運べ」
「「へい!」」
「つまむらかエオンだってば!
どっちで買ったかは忘れたけど 適当は言ってない!」
京美の叫びはフタツ面の森に響いた。