女三人の冒険⑩(気がかりと木の実)
やれやれ漸く本題に移れそうだ。京美はホッと息を付き、フィリップの隣に立ちお茶の準備を始めた。他の面々もテーブルの上を片付けたり置きっぱなしになっていた食器を洗ったりして皆一丸となってお茶会の準備を進めている。
「で、京美さん。今日はどんな要件でいらしたのですか?」
フィリップは人数分の菓子を大皿に盛り付けながらそんな事を聞いてきた。
「要件が無かったら来ちゃいけない?」
「いやいや、そういう訳ではないのですが……気になって」
「ふふふ、冗談よ。実はブレンダさんに用事があってさ」
フィリップはちょっと驚いた顔をした後に今度は申し訳無さそうに眉を下げた。
「あぁ……ブレンダにですか……? 今日は外に出てるんですよ」
「そうなんだ、まぁ大した事じゃなくてさ、お菓子の事で聞きたい事があったんだよね。大風の日に出す屋台のメニューのアイデア探しでさ……」
「あー、なるほどそういう事ですか! ブレンダは確かにグルメですからね……戻ってきたら京美さんたちがいらした事を伝えておきます」
「よろしく」
京美は人数分のカップを取り出して並べる。そしてティーポットの蓋を開けた。
「茶葉はそこの戸棚です」
「はいよ」
戸棚を開けて花のイラストが描かれた紙の袋を手に取った。湿気てしまわないように上部はしっかりと折られているが、こうして手に持っているだけでもかなり香ってくる。
袋を開けて中を見ると茶葉の量は少なく、今回で使い切ってしまいそうだった。
「フィリップさん、お茶っ葉これで終わりみたい」
「そうですかわかりました。取り敢えず今回の分があって良かったですよ。包み紙はそこのゴミ箱にお願いします」
「あー、あれね」
京美はお茶の包み紙をクシャクシャと適当に丸めゴミ箱に捨てた。
「……ん?」
ゴミ箱の底の方に鈍く光る物が見えたような気がした。他所のゴミ箱を漁るのは気が引けたが、どうしてもその光が気になり京美は少しだけ手を伸ばした。
硬い感触。指先で摘めるくらいの大きさの……。
「これって……ブレンダさんの指輪じゃない?」
京美の手には青い宝石のブレンダの指輪があった。
フィリップは振り向いて「ワハハ……」と力の抜けた笑い声をあげる。
「いやはや、天然も度が過ぎますな……きっと間違えて捨ててしまったんだと思います」
京美は「そっか……」と若干の違和感を感じながら指輪をフィリップに手渡した。
(天然……? あの指輪、確かブレンダさんは以前も私に渡そうとしていた……)
「あ! 京美さん、この木の実見た事ありますか?」
気まずさを誤魔化すようにフィリップは話を振る。
フィリップの手にはテニスボール位の硬い殻に包まれた木の実があった。
「ううん、知らない。その実が何なの?」
「実はこれなかなか珍しい食べ物なんですよ」
準備が終わり手が空いたアダムは側に寄ってきて、フィリップの持っている木の実を覗き込んだ。
「オレも久しぶりに見たな」
「うむ! 今回はこれを食べてみましょう! 京美さんのお力になれるかもしれません!」
「それ珍しい食べ物なんでしょ? いいよいいよ勿体無い」
京美は遠慮したが、フィリップは強く首を振りそれを許さない。
「お見苦しい所をお見せした事のお詫びと指輪を見つけて下さったお礼ですから……!」
フィリップはテーブルの上にネジリの実を置いて固定させ、刃物を使って真ん中に刃先を入れてクルクルと回して切れ目を入れた。切れ目が入ったネジリの実をアダムに手渡すフィリップ。
「アダムやってくれ」
「おう!」
アダムは両手を使いネジリの実をガッシリ両手で掴み瓶の蓋を開けるような仕草をした。右に左にとランダムに力を入れ回す。浮き出る上腕の血管を見るとかなりの力を要するのがわかる。
「もう、ちょいだ!!」
更に力を入れる。
「パカっ」と音がしたのでは無いかと錯覚するくらい見事に割れたネジリの実。殻を持ったまま広げるとようやく果肉部が現れた。




