悪餓鬼京美
肩を怒らせ肉屋の屋台に向かう京美。
売り場に足を乗せふんぞり返っている店主が見える。
もしかして、あれ商品を乗せる台に足を乗せているの?
ますます許せない。
「ねぇ、ちょっとあんた!?」
「あー…?」
のっそりと身を起こした男、身長は2m近くあるだろうか
上半身は筋肉の塊、肌は褐色
顔を上げると大きな横一文字傷。
そして頭には黒い二本の角があった。
(もしかして? ヤーシャ族!? デカイ……!)
男は高圧的な態度で「あー?なんだお前?なんか用かよ?」
京美は普通より気が強いとはいえ
人間であり唯のパワハラおばさん。
初めて見るヤーシャ族にカタカタと足が震えだす。
圧倒的な力の差、比べなくてもわかる。
動物園のヒグマを間近で見たような威圧感
でも、後には引けない!!
自分は正しい事をするのだから、
ここで引いたら自分が自分
でなくなる様な気がする。
鳩尾にグッと力を入れ震えを抑える。
「あんたさ、迷惑かけてるよ! 周りを見てなんとも思わないの?」
男はパァン!と屋台の台を叩き怒鳴る。
「なんだぁ、うるせぇぞ! お前黙れ!」
周りの商人や買い物客達が騒ぎに気づき
遠巻きに集まりだした。
側に来たアリナは男の声にビクッとしたが、すぐに
男と京美の間に入り込み
庇うように京美の腕を引っ張る。
「あぁ…この前のガキじゃねーか、へへへまた買いに来たのか? この前よりいい肉だぞ もっと高く買ってくれや」
ニヤニヤするヤーシャ族の男。
京美はアリナを自分の背中側に庇い
「買わないよ! あんたの足を乗せた台にあった肉なんてさ!」
「喧嘩売ってんのか?お前…」
とうとう男は屋台の裏側から、のそりと出てきた。
喧嘩なんて久しぶり、
こんな力の差がある奴とは初めてだけど
京美は恐怖と昂りを同時に感じゾワゾワした。
こういう力馬鹿タイプにはハッタリかますのが効くはず!
二十何年か前の喧嘩の経験。
京美は顎先をあげ相手を見下げ腕組みをしながら啖呵を切る。
「私を知らないの? 悪餓鬼の雌豹、京美さ!」
ヤーシャ族の男は目を見開いてワナワナしている。
「アガキの雌豹……狂魅!?」
(ぶっちゃけ知らねえ、アガキ? 何処の部族だ…?
そしてこの女の威圧感半端ねえ……何者なんだぁこいつは)
京美は(お?効いてる)と判断し、啖呵を更に切る!
「何モタモタしてんのさ! 後悔しないうちに消えな!」
ワナワナしているヤーシャ族の男は京美の頭頂部に目をやる
そしてガクガクしだした。
「お前の角……白の一角じゃねぇか…」
京美は手を角に添えて答える
「え…?あ、これね そうだよ白の一角だよ!(何ソレ)」
ヤーシャ族の男は「ひゃあ」と悲鳴をあげ
尻もちをついた。
「俺が悪かった、店を畳む、金も返す、この肉もやる!
だから許してくれ」
「肉はいらないよ さっさと消えな!」
「は、はい!」
ヤーシャ族の男は全てを置いたまま逃げていった。
「ふぅ~…た、たすかった…」
京美は安心感から思わず地面にへたり込んでしまう。
その背中をアリナは労う様に一緒懸命擦った。
パチ…
パチパチ
パチパチパチ!!!
ワーーー!っと周りから歓声があがる。
『ありがとう良くやってくれた!』
『格好良かったよ!』
『ヤーシャ族でも良い人もいるんだ!』
京美はへたりこんだまま、声援に答え手を振った。
─帰り道─
両手いっぱいの食材を持つ京美
そして、カタツムリの焼き菓子を頬張るアリナだった。