サミュエルとの対決②
殴られたオスカーは口元の血を拭いながら、半身を起こす。騒然となったホール内の従者達は成り行きを見守っている。
「それでは、王は一体何処へ消えたのだ!?」
『おーい!』
静まり返ったホール内では王の声だけがサミュエルの持つ携帯から響く。
京美はサミュエルの持つ携帯を指差して大袈裟に喋り始めた。
「あれぇ!? 今回の魔術は成功したんじゃない? どうなのよ”苦悶の魔女さん”?」
「え…武田さん? あ、そうか……話を合わせる系ですね……? は、ははは!その通り! 牢屋に居たト、トカゲを食べたから魔力が増したのだ! えーっと……王は病み上がりなので、ケータィじゃ無くて……その小さい箱に入れここに連れてきた!」
京美は目を閉じて村田の話に「良く言えた!」と頷いている。
「って事で、王様も治ったしアンタそんなにエラソーに振る舞わない方が良いんじゃない? 権力欲しさにヤーシャ族を悪者にしちゃった事もさっさと謝った方が良いと思うよ」
衛兵や侍女達は先程までは京美達のやり取りを見ているだけだったが、思いの外”苦悶の魔女達”が平和主義で大人しい事がわかり、安心し始めているようだった。
「王は無事なのか……?」
それはオスカー隊長が京美達に問いた言葉。
「無事だよ安心して! そもそも治癒草の効果、貴方も見てる筈だよ!」
京美はオスカーにニッと笑いかける。
「何の事だ……? ハッ!! そうだ「賊が出た」と私を呼びに来たあの侍女か! 死の石を試した侍女は確かに目覚めていた……治癒草の効果は遅れてだが確かにあったのだ!」
「そう、治癒草は効果があるんだよ!」
その言葉でホール全体が『ワァ!』と喜びに湧いた。
『この声は確かに王の物だ!』
『早く、魔女に魔術を解いてもらって王を解放してもらいましょう!』
─しかし、そんな歓声を打ち消す様にサミュエルは怒号をあげ始めた。
「私はこの術に騙されないと言っているだろう、お前等もそんな詭弁に簡単に騙されるんじゃない! こいつ等は悪党だ全てが嘘に決まっている!」
権力を振りかざすサミュエルと見た目が怖いヤーシャ族、従者達はどちらが正しい事を言っているのか判断出来ずに困惑している。仲間の内の誰かが最初に動くのを待つしかない。
「……しかし、サミュエル様お聞き下さい」
最初に勇気を出し動き出したのはオスカーだった。




