聖女が悪魔に堕ちる時
私は聖女シンシア。孤児院出身。婚約者は王太子のセアリアス様。私の力は偉大な神々より与えられた聖なる力。心が美しくないと扱えない、特殊な魔力。この魔力でこの国はもちろんのこと、世界全てを魔なるモノから守るのが私の役目。
でも最近、魔力を上手くコントロールするのが難しくなってきた。心が…魂が歪み始めているからだ。
心当たりはただ一つ。セアリアス様が最近仲良くしている公爵令嬢、ミレア様。セアリアス様はお友達だというし、ミレア様も堂々とセアリアス様のお友達として私のいる大聖堂に遊びに来るので扱いに困る。彼女への嫉妬心で、魔力を上手くコントロール出来ないから、余計に。
婚約者なのに、たかがお友達に嫉妬なんてと思うかもしれないけれど、それだけ私はセアリアス様が好き。セアリアス様もそんな私に誠実に向き合ってくださるから、余計に…余計に、ミレア様が邪魔なのだ。せっかくセアリアス様が来てくださっても、いい雰囲気になると彼女の邪魔が入るから。いい雰囲気といっても、せいぜいがキス止まりだけれど。私達はお互い真剣に婚約者としてやって来たし、節度は守っている。それなのにほんのささやかないちゃいちゃすら邪魔されるのだ。しかも来るたびセアリアス様との友情を全面に押し出し過ぎだし。嫉妬もする。
だから今日は、案の定ミレア様を連れてきたセアリアス様にちょっとした意地悪をすることにした。いつもなら笑顔でセアリアス様の目を見てお話を聞き相槌を打つのに、今日はそうしない。ぷいっとそっぽを向いて、無言を貫く。セアリアス様は、そんな私に対して誠実に対応しようとなされる。けれど、ミレア様が余計なことを言った。もしかして、私に嫉妬されてるのですか?と。
瞬間、私の魔力が暴発する。セアリアス様が咄嗟に庇ったのは…私ではなく、ミレア様だった。ミレア様は勝ち誇った顔で私を嘲るように見遣る。ああ、やっぱり今までのは演技だったのね。
ミレア様は私と同じ特殊な魔力を有する。魔力の量は私の方が上だから、私が聖女になってセアリアス様の婚約者になったのだ。由緒正しい公爵家の令嬢である彼女は混乱して、嫉妬して、こんな手を打ったのだろう。
でも、それは最悪の手段だった。だって、嫉妬に狂った私は悪魔に堕ちたのだから。悪魔に堕ち、変化した私を二人は唖然として見る。これが世界の、滅びの始まり。
さようなら、愛おしい貴方。