7.リリ、師匠に話をする
さっぱりとした気分でお風呂を出ると、疲労も癒えて気力も少し回復した。
師匠に声をかけると話をするのは先に夕飯を食べてから、ということで、食事の準備を師匠と共にする。
今日は草原兎のぶどう酒煮こみを昨日の夜に仕込んでいたから、それと、畑で育てている野菜のサラダ、パンをいただく。
草原兎、明日は狩りに行かないといけないな、なんて食べながら考える。
今日こなすはずだった依頼で、納品素材以外の肉は持って帰るつもりだったから、もう食材があまり残っていなかった。
食事を終えて、師匠が話を聞く体制になった。
「じゃ、詳しく話を聞こうか」
「えーっとですね」
覚悟していたけれど、言いにくい。
けれど言わなければ自分に何が起こったのかさえわからない。
わたしは、ひとつ深呼吸すると今日あったことを話し始めた。
ひとまず管理者と自称する青年と出会ったところまで話すと、師匠は頭が痛そうに眉間を抑えている。
「つまり、あれかい? ダンジョンに入り込もうとしたら変な空間におっこちて、そこで『管理者』ってのに会ったんだね?」
「はい」
「で、そいつから、加護を貰った、と」
「――はい」
じとり、と座った師匠の視線にわたしはなんとかうつむかずに返事をする。
「まず、リリがダンジョンに潜り込もうとしていたのは置いておくとして」
あ、これはあとで怒られるやつ、と思ったけれど、「はい」と返事をする。
「加護、ねぇ」
師匠は、ひとしきり考え込むと、ちょっと研究室に行こうか、とわたしを促した。
研究室は師匠が錬金術をするために作られた部屋だ。少々の爆発なら耐えられる作りになっている。
「んー、《灯光》を出してごらん」
わたしが《灯光》の明かりを出すと、師匠は眼鏡を取り出して、それを興味深げに観察している。
「そのままいいって言うまで消すんじゃないよ」
維持している《灯光》が、師匠の魔力の干渉を受けて消えそうになったので、慌てて魔力を注ぐ。
「――たしかに、魔法に何かの加護が乗ってるみたいだね」
師匠は呟くと、さらに干渉を強めた。
干渉を受けた《灯光》の明かりが揺れる。
「何かわかりますか」
「んー、興味深いね」
わたしの質問には答えず、師匠は別の魔道具を取り出した。
それで《灯光》をかざすように見ている。
ふと、それまで熱中していた師匠が顔を上げた。
「そういえば、変な空間に落ちたって言っていたね。リリはどうやって帰ってきたんだい」
「えっと、それは、その、」
言わずに済むならば黙っていたかったが、師匠はじっとわたしから目を離さない。
「早く言いな」
「管理者っていう人に、どちらが外になるか教えてもらったんです」
「ほう、それで?」
「壁に穴を開けて戻ってきました」
「はぁ? まったく、それをもっと早く言いいな」
「一応、穴は見つかったらまずいかなぁと思ったので、周りの壁を壊して土砂で埋めてきました」
「そういうことばっかり上達するねぇ」
「えへへ」
「ま、無事に帰ってこれてよかったよ」
そう添えられた言葉に、胸が温かくなった。
「けど、これはどうするかねぇ。話を聞く限り、攻撃力が上がる系の加護だとは思うんだけど。
ギルドに言うにしても、もうちょっと詳しいことがわかってからだね。
明日現場を見て、実戦を見せてもらってから、どう話すか決めようか。
シュリも無謀なことはするんじゃないよ。
あと、ダンジョンはきちんとパーティを見つけて、正攻法で挑むこと。
わかった?」
「わかりました!」
そして明日、そとで実際に魔法を試してみることになった。