6.リリ、帰宅する
先ほど《火炎撃》を投げたあたりに行くと、壁に大きな穴が出来ていた。
「あ、結構えぐってる」
これから、この穴を起点に壁を崩しながら外に向けて穴を進めていくことになる。
結構長いこと落ちたので、大分登らなければならないだろう。
土地に働きかけるような魔法が使えたら、もしかしたらさっさと帰れるのかもしれない。
けれど、残念ながらそのような魔法は高い魔力と難しい制御を必要とする。
わたしにはまだ実践レベルで使いこなすことはできなかった。
せいぜい、師匠の畑を耕す時に、ちょっと楽ができる程度だ。
生き埋めにならないように制御に気をつけなけれなければならないけど、ここはやはり《火炎撃》で壊していくのが手っ取り早そうだ。
そうして、まずは一発目の《火炎撃》を放った。
何も考えずに放った《火炎撃》は、制御も甘く先ほど開けた穴の上に当たり、壁が崩れて穴をうめる。
うん、ただ壊すならこれでいいけど、登れるように道を作っていくなら、もうちょっと威力の調整も必要だし、角度も考えないといけない。
出た土砂は風魔法で下に転がすとして、これは、意外と難しいかもしれない。
そんな思いに駆られながら、次弾の《火炎撃》を作り出した。
それからもう大分長いこと、穴を掘り進めている。
工夫しながら繰り返すうちに《火炎撃》を維持しながら土を削っていくなんてこともできるようになった。
悪いことばかりでもないけれど、早く帰りたい。
「もうちょっとだと思うけど。……あ、やった」
休憩しつつ、外側の魔力を探索してみると、岩山の外側の生き物の魔力がうっすらと感じられた。
巻き上がる土ぼこりで泥まみれだし、汗だくでもある。
早く帰りたいが、最初みたいに適当に撃って、これまで折角掘ってきたトンネルを崩して振り出しに戻るなんてことになったら、泣ける。
気が緩みそうになるけれど、最後が肝心だと気を引き締めた。
ここで制御を誤ると、面倒ごとになる予感もある。
ないと思いたいけれど、もしかしたら、近くに誰かが居て様子を見にくるかもしれないし、音を聞いた森にいる魔物がやってくるかもしれない。
これだけ魔法を使ったのだ。わたしの魔力は隠しようがない。
威力を絞った《火炎撃》を作り出す。
慎重に手の中に《火炎撃》を溜めてあぶるように壁を穿つ。
しばらくそうしていただろうか。
「よっし、これで、ラストっ」
予想通り、壁に穴が開き、外の爽やかな風が吹き込んできた。
小さく開いた穴を広げて、這い出ると外は既に日が暮れていた。
空には星が瞬いている。
汗まみれの体に風が気持ちよい。
ひとまず、穴の周りの壁を壊して見つからないように、穴の上の方を再び《火炎撃》で壊し、穴は隠した。
目印はないけれど、しばらくは魔力の残滓は消えないだろうし、おそらく次に来た時も見つけられるだろう。
草原兎の依頼は手付かずだけれど、もう、魔法を使う気力が残っていない。幸い期限は何日か先だったはずだ。
今日は帰ろう。
* * *
「戻りました!」
「遅かったね」
ドアを開けると、師匠は在宅だった。
「今日はもう少し早く帰ってくるって聞いてたけど――」
師匠がわたしの恰好を見て固まる。
うん、泥だらけで汗まみれだもんね。
「うわ、また下水管でも爆破したんじゃないだろうね」
「……近いものがあるかもしれません」
「なんだいそれは」
下水道、ではないけれど。どう話そう。考えていなかった。
これまでにわたしがやらかしてきた色々を思い出したのか、渋い顔で師匠が言う。
けれどしかめた顔をしつつも師匠は優しい。
「先に風呂に行ってきな。まずはそれからだよ」
そしてわたしをお風呂に放り込んだ。