01
蒸し暑い真夏の夜。僕は同じサッカー部の同級生と一緒に自転車を漕いで夜道を走っていた。
「ね、ねえ、本当に行くの?やっぱり帰らない?」
「今更何を言ってるんだよ!噂の幽霊列車を見に行くんだろ!」
「う、うん」
僕の名前は長戸真守。天神高校に通う高校2年生だ。
僕は今、同級生の青樹利明と一緒に、10年以上も前に廃駅になった旧天神駅という駅の跡地に向かおうとしていた。最近、その旧天神駅に夜遅く幽霊列車が現れるという都市伝説が学校で流行り出し、それを確かめに行こうと利明が言い出したからだ。
しかも、夜9時という時間に。夜7時頃まで部活動をして、その足であちこち寄り道をしながら、少しずつ駅を目指して自転車で移動してきたのだ。
正直、僕は部活終わりでクタクタだし、あんまり乗り気じゃないんだけど、小学生時代からずっと同じクラスで一緒に過ごしてきた利明が行くと言い出すと、なぜか僕まで一緒に行く事になってしまうのが当たり前になっていた。
「しっかし、海辺のこの辺りは本当に田舎だよな。店も街灯も全然ないし」
僕の横で自転車を漕いでいる利明が急にそんな事を言い出した。
「利明、そういう言い方は失礼だよ」
とはいえ、利明の言う事は尤もだ。街灯がほとんど無いし、今日は生憎曇りで月明かりも期待できないから、頼りになる明かりは自転車のライトが2つだけ。気を付けていないと、急に暗闇から飛び出してきた人と激突。なんて事もあるかもしれない。
僕等の住む天神市は、天神港という港を持つ港町で、この辺りも昔は随分と栄えていたみたいだけど、今では古い民家と空き地ばかりで、スーパーもコンビニも無い田舎だった。だから海辺の市民が買い物をするには、僕等が住んでいる内陸部の市街地まで来ないといけない。
「あはは。悪い悪い」
僕の注意を聞いて、利明は謝ってきたけど、まったく悪びれる様子はない。こういういい加減な所は利明の悪い所だ。
「なあ、それよりもそろそろ着くぞ」
僕と利明は自転車を止めた。
そして自転車から降りて、互いに自転車の籠に入れてある懐中電灯を手に取って点ける。
2つの懐中電灯で照らした先にあったのは、僕等の身の丈よりちょっと高い位の柵。そしてその先には廃線になった路線の線路跡が今も残っていた。
市では再整備の計画があるらしいけど、予算の都合がどうとかで何年も放置されたままになっている。今では柵を乗り越えた子供が遊び場にしていた。僕も利明も小学生くらいまでは何度かここで遊んだ事がある。
「よし。行くぞ!」
「ね、ねえ、やっぱり、止めた方が・・・」
「ここまで来て何を言ってるんだよ。ほら行くぞ」
利明が柵をよじ登るために手を掛け、それに少し遅れて僕も柵に手を伸ばす。
その時だった。ものすごい突風が吹き荒れて僕と利明に身体に叩き付けられた。
《通りゃんせ 通りゃんせ》
「え?」
風の音に混じって、幼い女の子の声のようなものが聞こえてきた気がした。
「ん?どうした?」
「い、今、何か聞こえなかった?」
「何か?さっきの風の事か?すごい風だったよな。涼しくて良かったけど」
「・・・」
もしかして、利明には聞こえなかった?も、もしかして僕だけに?いや、きっと風の音がたまたま女の子の声に聞こえたんだろう。これから幽霊列車を見に行こうなんてしているから、頭の中がちょっとホラー寄りになっちゃってるんだ。うん。そうに違いない。
登場人物の青樹利明と長戸真守は、私が執筆している「銀河帝国衰亡史~銀河を駆ける三連星~」に登場するジュリアス・シザーランドとトーマス・コリンウッドをそれぞれモチーフに作っています。
名前も青樹利明、長戸真守という感じになってます。