8話:帰宅
■――帰宅――
(事故…)
三笠は、呆然と眺めるしかなかった。
あまり、信じていない。
信じたくないが、分かってしまった。
自分がここで死んでしまったことを。
「理解、できるか?」
連花のその言葉に、三笠は無言で頷いた。それをみて連花は、
「そっか・・・」
とだけ、短く言った。
「戻るか」
「うん…」
きびすを返して、来た道をまた戻っていく。
連花のあとを少し遅れて、三笠は足がとても重かった。
連花は、早く離れたいのか、とても早足だった。
また、住宅街に戻ってきた。
さっきまで、普通に笑顔で話せていたのに、もうそんな余裕はない。
「あのな…」
連花は、独り言にように後ろでゆっくりと、歩いてくる三笠に言った。
「その時な。俺、見てたんだ。っていうか、直前まで話してたんだ」
一言、一言こぼれていくように、
「笑ってたんだよ。お前が、いつもみたいに。花みたいな笑顔でさ、それが…」
聞いているかも、分からないその言葉は、そこで止まった。
三笠は黙って、連花の少し後ろで連花の背中を見つめていた。
もしかしたら、泣いているのかもしれない。
じっと、下をむいて立ち尽くしている連花。
その後ろで、三笠の頭はグルグルとまわっていた。
(この時代の、私は死んでる?)
頭で、理解しようとしていた。
(私は、10年後に死ぬ?)
理解、出来なかった。あまりにも、大きい事だから。
「連花・・・」
「…」
すがる様に、名を呼んだ。
しかし、連花は黙ったままだった。
三笠は、体をそっと連花の背中に預けた。
連花の体が少しこわばるのが分かった。
そして、ため息のように言った。
「ごめんな・・・」
初めて、会った時のように。
「…」
(何で、謝るの?分からないよ)
そう言いたかった。言って、慰めてあげたかった。
でも、出てこなかった。
そして、また二人はゆっくりと歩き始めた。無言のまま。
そして、いつの間にか三笠の家の前についていた。門の前で、彼は言った。
「ここで、お別れだ」
そういって、彼はカイロのような物をポケットから取り出した。
「…どういうこと?」
「…お前の時代に戻るんだ」
そう言うと、彼は、思い切りその袋を破いた。
すると、中から、明るい光が出てきて三笠の体を包んでいく。
「大丈夫。戻るだけだから。…俺のこと、またよろしくな」
「ちょっと!」
「ごめんな・・・。お前を守れなくて」
「え?」
そして、三笠の視界は光に包まれていく。
「連花のせいじゃ・・・」
「ずっと、大好きだったよ。三笠…」
その言葉が最後だった。
三笠のまわりは、光から一変し、暗闇に包まれた。