6話:存在
■――存在――
二人は今、住宅街を歩いていた。
見慣れた景色のように、三笠は感じたが、どこかに違和感が残る。
(本当に、ここは未来なのかな?)
連花が、言うには、ここは10年後の未来だそうだ。
あの、夏の日からちょうど10年。
連花は今もこの町に住み、生活をしているらしい。
他にも、駅前がだいぶ変わったこと。
三笠の友人、九条 琴美がタレントになったことなど。
今の三笠には信じられないが、色々なことを聞かされた。
「それで、俺は今、教師をやってんだ」
「へぇー、そうなんですか。どこの学校ですか?」
「俺達の母校の中学。ついでに、塾の講師もやってる」
「・・・いいんですか?そんなことをして」
「いいんだよ。たぶん」
この適当な感じは、三笠の知っている連花と変わっていないのだが、
三笠はやはり、まだ信じ切れなかった。
そのことは、連花も分かっているようだった。
「やっぱり、信じらんないよなぁ」
「え?」
いきなりの、言葉に三笠はびくりと肩をすぼませた。
「ありえないよな。こんなこと」
「い、いえ。そんな事、ないです」
「いいよ。無理しなくて」
「…」
確かに、信じられなかった。
今、三笠の隣にいるのは、大人になった連花。
それは確かだと思っている三笠なのだが、
(やっぱり、無理だよ。いきなり、そんなこと言われても・・・)
「そうだよな・・・」
そう、連花がポツリとこぼしながら、目頭の近くを軽く引っかいた。
「あっ・・・」
その時の連花の表情には見覚えがあった。
不安な時、悲しい時によくそうしていた。
(私だけが知ってる。連花の弱いところ)
その時、彼女はやっと理解した。
(連花は、変わってないんだね)
今、隣にいるのは連花なのだと。
「今、分かりました」
「え?」
「あなたが、私が知っている。連花だって言うこと」
いつもの、花のような笑顔。
それが、彼女に不安が無いことをあらわしているようだった。
連花は、始め、驚いたように見ていたが、笑顔で三笠に答えた。
そして、三笠はふと疑問に思ったことを口に出した。
「ねぇ、今の私はどうしているの?」
その瞬間、連花の表情が凍った。