表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

4話:タイムトラベル

■――タイムトラベル――


穴の中は、まるで海の中のように静かで暗かった。


ドプン


水でもあったのだろうか、何かの中に入り込んだ。


少しずつ意識が遠のいていく。


(私、どうなったんだっけ?)


今頃になって、やっと追いついてきた頭が、今の、現状を考え始める。


妙な浮遊感が三笠を包んでいたかと、思うと一瞬にしてそれが無くなり、急に落下を始めた。


(何?何?これ)


あわてて、状況を見極めようとした時、ドサリ何かの上に落ちた。


「ぐえっ」


「うぇ?」


多少の痛みはあったが、そこまでの痛みは無かった。


怪我もないし、クッションのように男の人が下敷きになってるだけで、


「お、重い・・・」


「ああ、ごめんなさい!」


三笠はあわててどき、その男性にお辞儀をした。


三笠は落ち着いて周りをみて見るとそこは、三笠の家の前であった。


「あれ?私、どうしたんだっけ?」


「…、やっぱり、お前変わらないな」


「あ、そうだ。家に帰る途中だったんだ!」


「おっ、おい」


「それじゃあ。よく分からない人。さようなら」


「ちょっと待てよ!」


「はい?」


三笠は、首をかしげて勢いよく立ち上がった男を見つめた。


その男は、少し赤みがかった髪をしていて、とても誰かに似ていた。


(あれ?会った事あるかな)


そして、フレームの細いめがねをかけていた。


男は頭をガシガシとかいて、


「はぁ、やっぱり、いつになってもお前のペースなんだな。


…いや、昔だから当たり前なのか」


「あの、私の知り合いですか?」


三笠がそう尋ねると、男は一瞬キョトンとした顔になり少し自嘲気味に笑った。


「そりゃそうか」


悲しそうに、つぶやいて男は、ズボンについたホコリをはらった。


(あ、連花に似てるんだ)


考えていた三笠が、ようやく気づいたとき、男は三笠の頭を優しくなでた。


その雰囲気も連花にそっくりだった。


(本当に似てるなぁ。家族かな)


三笠はそう、思いながら、男を観察していると、いつの間にか、


その男の後ろに黒いぼろぼろの服を着た女の人が立っていた。


その女は、三笠を一瞥してボソリとつぶやくように言った。


「これで、いいのか?」


「ああ。ありがとう」


「礼を言われることはしていない。私は私の仕事をしたまでだ」


そういって、風のようにどこかに消えてしまった。


(あれ?そこにいたのに)


三笠が目をごしごしとこすった。


あたりは、夕暮れ。


オレンジ色に染まる町並みが、もうすぐ訪れる夜を告げている。


三笠の周りが急に暑くなった。何かで、三笠の視界がさえぎられた。


「ごめんな・・・」


悲しそうな声で、そんな台詞が頭の上からふってきた。


三笠は今頃になって、誰かに抱きしめられていることが分かった。


(誰に?)


思考をめぐらせると徐々に視界が開けていった。


そこにあったのは、あの男の顔だった。


その表情は、優しげな、とても悲しげな表情だった。


(連花?)


頭の隅を連花の顔がよぎる。まるで、彼が連花、本人のように。


「あの…、どうしたんですか?それより、あなたは誰なんですか?」


三笠がそう尋ねると、彼は、うっすらと笑って、


「俺は、お前が知ってる。須藤 連花だよ」


そう、告げた。まるで、明日の天気でも話すかのように、気軽に。


「え?」


三笠の口からこぼれた言葉は、


いきなり吹いた、夏の風にさらわれるように、消えていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ