2話:未来
■――未来へ――
「ん?どうした。三笠。腹でも痛いのか?」
「ち、違うよぉ。なんでそうなるかなぁ?思考回路がおかしいんじゃない?」
「それは、ひどいな・・・」
少し、赤みがかった髪の少年。須藤 連花。
彼は、極普通の少年である。
背もそこそこ高く、ルックスもなかなか良く、
たまに告白をされたりなんだりの話も少しはある、という少年だ。
そして、隣で思考回路について熱く語っている、三笠と呼ばれた黒髪の少女。
いつも明るい太陽のような、少女だった。
「ちょっとね。今、変な感じがしたんだよ。なんか、後ろ髪を引っ張られるというか・・・」
「つかい方、間違ってんだろ。それ」
「いいんだよ。表しようがないんだから、この感じは!!」
怒った口調で声を張る。雨宮 三笠。
この二人は、幼馴染である。
今は、高校3年、7月14日。
もうすぐ、夏休みに入る直前の状態。
普通は浮かれてしまうのだろうが、3年ともなると、受験を控え、
勉強するのが普通なのだろう。
「連花は、夏休みどうするの?やっぱり、勉強?」
首をかしげながら、尋ねてくる三笠。
遠まわしに尋ねているが、どこかに行きたそうにしているのが、丸分かりだ。
こういう時は、直球で聞いたほうがいいだろうと、目星をつけ、
「何、どっか行きたいの?」
そういうと、三笠は、待っていましたといわんばかりに、笑顔の花が咲き。
「じゃあ、海に行かない?」
「海?俺って、泳げないんだよなぁ」
「えっ、そうだったっけ?じゃあ、どうしよう・・・」
うつむいて、考え込んでいる三笠は、チラリと連花を見た。
その視線を受けて、連花は一つ息を吐くと、
「いいよ、別に泳ぐだけが遊びじゃないし」
「やった、じゃあ、今度電話するね。そうだ、ついでに泳ぎ方も教えてあげるよ」
「いいよ、めんどくさい」
連花は、そういって手をひらひらとふって、先に歩いていってしまう。
二人は、今、帰宅途中。
三笠は、美術部、連花は陸上部に入っていて、
今日はたまたま帰りが一緒になったため、一緒に帰っている。
三笠は、連花の少し後ろを歩いて、なにか楽しそうに考えていた。
(聞いちゃいないな。しゃあない)
連花は、海に行くことを、少し後悔していた。
「じゃあ、また明日」
連花は、ぼそぼそとなにかつぶやきながら、考え事をしている三笠に声をかけた。
すると三笠は笑顔を連花に向け、
「じゃあね」
と小走りに、少し先の三笠の家にいってしまった。
「ああ・・・」
彼は、少し火照ってしまった頬をつねり、
(何やってんだ、俺。目が合っただけで、顔が熱くなる・・・)
空に浮かぶ、大きな入道雲を見つめた。
(俺は、あいつの事・・・)
青空は、どこまでも青く澄んでいた。