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1話:過去への思い
■――過去への思い――
ざわめく、人々の群れ。
照り返される車のヘッドライト。
何度も、何度も変わった信号。
信号は、点滅を繰り返し、赤に変わる。
そして、赤い光に照らしだされる赤黒い肉片。
ついさっきまで、俺の隣で笑っていた。
ついさっきまで、俺と話していた。
「何で・・・」
俺のつぶやきは、人の雑踏にかき消されていく。
ゆっくりと、ひざから力が抜け、その場に座り込む。
彼のかけていた、メガネが地面へと落ちていく。
グシャ
メガネは、彼の目の前で踏み潰され、粉々になってしまった。
まるで、目の前であの肉片になってしまった、彼女のように。
その時、俺の周りの温度が、急に下がったように感じた。
彼女は、今、死んだんだ。
血だらけになった、横断歩道は、そのことを俺に冷酷に告げていた。