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7話 討伐と私

お付き合いいただき、ありがとうございます。

初の戦闘シーンです。美少女は出てきませんが、働き盛りのゴブリンは出てきます。

大木の傍らに3つの濃緑の体躯が転がる。ゴブリンの醜い顔はさらに苦痛に歪んだ表情で、見るに堪えない姿であった。


その全ては急所を完全に突かれて絶命しており、熟練のハンターによる討伐のようにも見えた。

これが初めて魔物との遭遇した者の戦果だと分かれば、パーティや他の冒険者から声が掛かるぐらいの功績であろう。




「………なんだったんだ、今のは。」




辺りの気配を探りながら、ユウは視線を下ろす。


「モンスターよりも、俺にこんなスキルあったっけ…?」




ユウは無傷のままであった。




—————————————————



時を遡ること、10分ほど前。



投擲のスキルを一心不乱に修練していたユウであったが、実は心の中で思っていたことがあった。


(あと1回クリティカルが出たら、俺は休憩する!!!!)




スキルの修練のやめ時を失ってしまい、実際には何度もクリティカルを出してその感覚を身に付けていたが、もう1回、もう1回を繰り返すうちに結構な時間が経ってしまったらしい。



(まずい。この森が安全とも限らないし、腹も空いてきた。)



幸い、湧き水で喉を潤すことはできたが、なるだけ早く温かいベッドで…とまではいかないが安心できる寝床を探したい。




自身が敵と出会った時に戦えるだけのスキルを身に付けたい、という気持ちと、早く安心できる場所で気持ちの整理がしたい、という気持ち。この二つの気持ちの天秤は長い間均衡を保たれていたが、ようやく傾いた。




「これでラストォォ!!!!」




投擲した石ころが光を帯びて加速し、快感を伴う感触と共にユウの元へ帰ってきた時、ユウは自分の優柔不断の束縛から解かれたような気持ちになった。




3頭のゴブリンはその油断を待っていたかのように強襲を掛けた。

優れたコンビネーション、とまではいかないが、それなりに統率の取れた動きだった。


一番手のゴブリンがユウの気を惹くために甲高い声を上げる。ユウは咄嗟に身構えて、そちらに目を向ける。




しかし、このゴブリンは囮であった。本命は2体の連携で裏側から回り込んでいた。



「な、なんだこいつ!」



初めて魔物に遭遇したユウは完全に飲まれていた。その反応を見て、ゴブリンが下卑笑いをこぼす。

更に煽るようにいきりたって襲いかかった。回り込んでいる2体は足音を消して近付いている。



(ど、どうする?武器と呼べるものは石ころしか…!)



既に最悪の状況だったが、ユウは頭をフル回転させて自分の中の選択肢を絞り出した。



さっき覚えたばかりの投擲を使って攻撃をするか?

ゴブリンの手にした棍棒を避けた方がいいか?

逃げ足スキルを試してみるか?

それとも拳でぶん殴ってやろうか?

大声で助けを呼ぶか?




優柔不断から来る日頃からの心配性が今遺憾無く発揮された。

それと共にユウの中に眠っていた盗賊のユニークスキル『鷹の目』が目を覚ます。




(どうすれば良いッ…?!)




緊張の一瞬、突然ユウの視界に多数のリングが現れた。

ある物は赤色を示し、またある物は青色を示している。

色の濃淡も様々だが、ゴブリンの持つ棍棒、ゴブリンと木の僅かな隙間、ユウの持つ石ころ、そしてユウの腕などが覆うように表示されている。




考え得る様々なパターンを演算し、最適な行動を選び取る。これが盗賊がもつ独自のスキル『鷹の目』であった。




ユウは反射的に、その中でも一番濃い青色が表示されていたゴブリンの木の僅かな隙間に飛び込んでいた。


ユウの身体能力なのか、逃げ足スキルの効果なのか分からないが、ゴブリンの攻撃を紙一重で躱しながらゴブリンと少し距離を取り、着地様にくるりとゴブリンの元に向き直った。




向き合ったゴブリンは一瞬何が起こったか分からずに怒りの表情はそのまま、首を傾げている。


回り込んでいた他2体のゴブリンも、囮のゴブリンがしくじったことに忍び足を解き、臨戦態勢を整える。



「な、3体もいたのか!」



距離を取って態勢を整えようとしたユウの選択は正解だった。


というのも、『鷹の目』で濃く表示されていたものは成功する可能性が高いものであり、スキルの効果を知らないユウは本能的にその選択を選び取っていた。


しかし、回避に成功しただけで決して安心できるものではない。敵は3体臨戦状態におり、地の利は完全に向こう側である。



ところが、知能の低いゴブリンは咄嗟に起こった事態を呑み込めず、次の手をどうするかをリーダーと思しき1体に委ねている。


3体というパーティを組んでいるからこそ、生まれた瞬間的な隙であった。


その隙を『鷹の目』が察知したのか、1体のゴブリンの左胸に大きな赤いリングが大きな輪から小さな輪へと動きを繰り返しているのが見える。


考える間もなく、ユウはそれに向かって手にした石ころを投擲する。

赤い輪が最小になった瞬間、ゴブリンの胸に石ころは吸い込まれた。



ザシュッッッッッ!!!!




光を帯びた石ころはゴブリンの左胸に直撃し、鮮血がほとばしってゴブリンは呻き声を上げて倒れた。

ユウの右手に石ころの感触が戻る。




紛れもないクリティカルヒットだった。下級のモンスターとはいえ、まともな武器ではない石ころで致命傷与えるのは容易ではない。ユウは初戦闘でそれをやってのけた。更に幸いなことに、ユウが仕留めたのは3体の中でもリーダー格のゴブリンであった。




群れの長を失ったゴブリンは、もう作戦などどうでもいいとばかりに、いきり声を上げて力任せにユウに襲い掛かった。


ユウは右手にある石ころの感触に安堵し、次の展開を考える。頼るにしては、とても心細い相棒であったが、この相手には通じる。ユウはぎゅっと右手を握った。



『鷹の目』はそれ程有能なスキルではない。あくまで結果を予測するだけで、決定的な攻撃力や防御力があるわけではなかった。

また、使い手の想像力や予想に大きく左右されるものでもある。


盗賊という職業を選ぶのは、世にいうならず者やはみだし者が多かったので、ユウのような真面目で優柔不断なタイプは稀だった。そのユウの心配性な性格が、様々な可能性を見出し、それに予測する答えを与える。



優柔不断な盗賊、この二つは一見ミスマッチなようで、奇跡的な程、噛み合っていた。




ユウが表示されるリング、『鷹の目』の特性に気付き始めた頃、両者の勝負は既に決していた。


紙一重に躱されるゴブリンの攻撃、その隙を利用したユウの投擲。


段々と形勢を逆転されるゴブリンの目に、彼らが予測していた未来は映らなかった。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

初評価いただきました!めちゃくちゃ励みになります!

次回は管理者からもらったリセマラのご褒美についての話です。

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