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5話 立ちくらみと私

お付き合いいただき、ありがとうございます。

今回も少しの間よろしくお願いします。

青い。


視界の果てまで、青い空が続いている。


呼吸する度に新鮮な空気が体内を巡る。

どこか湿っぽいようで、それでも心地よい新緑の匂いがする。

背中にはふかふかの草がベッドのように倒れこんでいる。

風で葉が優しく揺れる音と、遠くの方で鳥のなく声がする。




久しぶりだった。こんなに、のどかでゆっくりとした時間を感じるのは。


このまま全ての体重を預けて、ずっと寝転がっていたいという誘惑が頭を支配しようとしていた時、彼はずっと忘れていたものを突然閃いたかのごとく、起き上がった。




「俺は………。そうだ、あの管理者に……。」




まだ頭の中の整理ができていない。



落ち着こう。

初めから考えよう。



優は自分にそう言い聞かせて、記憶を辿った。

出勤前、トラックに轢かれて、管理者に出会って…。

永遠とも思えるような新しい人生を選ぶことをして…。


最後の方は思念体の限界を越えていたので曖昧だったが、大体のことは思い出せた。


今置かれている状況を考えるに、きっと、転生とやらは上手くいったのだろう。




優はそこから、じっと自分の手足を見た。

違和感はない。生前の優とほぼ同じサイズか、少し細くなった程度だ。


手や足を動かしてみたが、問題無く動かすこともできた。むしろ、以前よりも軽くなったと感じる程だった。



自分で視認できる部分に対しては、以前の自分の姿と変わりなく、普通の生活が送れそうな気がした。


「そういえばジョブは…?気が遠くなる程悩んでた気がするけど、どうなったんだ?確か最高ランクっぽいSランクが多いのを選別してたんだが…」


優のその思いが起動コードになったのか、脳内に自分のステータスらしきものが浮かび上がった。




ユウ(18)

ジョブ:盗賊(D)

スキル:投擲(C)、探索(C)、逃げ足(D)




「は?」



優、もといこの世界ではユウと表記されている。

しばらく茫然として、言葉を失っていた。




「いやいや、あれだけ吟味して、そんなわけ無いよな。」




今見たのは何かの間違い、そう思い込んでもう一度自分の心に聞いてみる。

またも脳内に表示されたのは、つい先程見たばかりの、同じステータスだった。



「………。」



何回繰り返しても、同じ文字と記号が羅列されている。

決して納得ができる内容ではないが、ユウの頭の中に少しだけ、もしかしてこれ、本当に俺のジョブとステータスなんじゃないか、という思いが芽生えた。

青ざめるユウ。首筋をヒヤリとしたものが伝う。



「おいィ?!こんなん受け入れられるかよおおお!」



ユウは自分の意思とは裏腹に叫んでいた。

足元の草むらに頭を打ちつけ、声にならない声を漏らしていた。あの苦行のようなリセマラの時間は何だったんだ。Sランクと表示されていたものが、ただの羨望へと変わり果てる。




虚しい叫びだった。

ただ現実として残ったのは盗賊の2文字、それも最下級のDランクだ。

目ぼしいスキルもない。これならば、一度目で奇跡的に表示された剣聖にしておけば、幾ばくか良い転生生活を送れたものを。



ユウは再度、心地よい草原に大の字になった。心の中は曇り空だった。

何か失ったわけではないが、リセマラの途中見てきた物を考えると、手に入らなかった物が大き過ぎた。



「そもそも、盗賊ってなんだ?これからの人生は野盗として生きろってことなのか?」



自問自答する。決して優等生なタイプでは無かったが、常識は身につけているユウにとっては、盗みはおらか万引きや恐喝すらしたことがない人生を送ってきた。いわば盗賊とはかけ離れた人生を送ってきたのだ。


しかし突きつけられた現実は残酷なものだった。



これから先、どうすれば良いのだろう。

そもそも、ここがどういう世界なのかという抱いた疑問がユウの重い腰を引き上げるきっかけになった。


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