4話 強制終了と私
管理者に転生後のジョブと見た目を選ぶことを迫られ、悩みに悩む優。
更に自分が思念体で居られる時間には限りがあると催促を受ける。
数多のアバターを見てきたおかげか、元よりそういう仕様だったのか分からないが、新たに分かった事がもう一つある。
優の目には今までジョブとスキル、見た目しか映っていなかったのだが、新たに所持しているアイテムとそのランクまで分かるようになった。
しかしこれは優にとっては、またも悩みの種を増やすだけであった。
「ビタナギの槍(S)、このビタナギって素材なの?作った人の名前なの?説明してくれよ!」
スキルの名称だけで効果がわからないことと同様、アイテムについても名称とランクは分かるものの、その効果はまるで分からないのである。
優は悩んだ。大いに悩んだ。さすがに数をこなしすぎてパターン化してきたのか、今までに見たことのある職業や見た目、スキルなどもちらほらと現れ始めた。
どうせなら少しでも強く、便利な物をと望むのは人の性であろう。決めかねられないまま、ただアバターの羅列と時間だけが過ぎていく。
「駄目だ…決められない。こんな大事な事に制限時間設けるなんて酷過ぎる…」
気付けば不平不満ばかりを口にするようになっていた。
優には一つの期待があった。
それは【勇者】が表示されることだ。
ゲームやアニメで何度も目にしてきた職業。当然、憧れがあった。
【勇者】として新しい生を送ることができれば、きっと安定した生活や地位を得られることができるだろう。
「今までサラリーマンとして、凡夫として送ってきたんだ!異世界でぐらい、良い思いをしてもいいだろ!」
しかし、そこには大きな落とし穴があった。
【勇者】とは、国を救うような功績を成した者に与えられる称号である。
つまり、職業としての【勇者】は無い。
強者、または国に功績をもたらすことができる指折りの強者にのみ与えられる、いわば肩書きであった。
リセマラの数、数百を超えた頃、優の目は既にSランクがいくつ表示されるか、【勇者】が表示されるか、のみに焦点が絞られていた。
低ランクやありきたりなスキルには目もくれず、なし崩し的に【勇者】でなくてもひたすらに希少性の高そうなスキルやジョブを探し、ここぞというタイミングを探していた。
しかし、そういう時こそタイミングは訪れないのである。
常人が持っている「妥協」という行動、つまりスキルを優本体は所持していなかったのである。
リセマラの数が百を超え、千を超え、万に届こうかと言う時、とうに思念体としての持続時間は限界を超えていた。
優はまたも我を忘れ、というか思念体そもそもが消滅しかかってる今、自分の望む結果を待つ選抜の為の機械のようにリセマラを繰り返していた。
「Sランク、タリナイ…マダ、オワラナイ…」
呻き声のように、生を持っているいるのなら、まるで廃人のようにリセマラを繰り返す優。既に許容量を超えていた。
「え?お前まだ居たの?というかもう消えかかってるし、さすがにまずいんじゃない?」
不意に管理者の声が響いた。さすがに前回釘を刺しておいたので、管理者としても驚いたのだろう。
「カンリニンサン、キメラレナイ…モウコロシテクレ」
「いや俺は管理者だって。お前はとうに死にかかってるし…」
「キメラレナイ、キメラレナイヨ!!!」
「そうだろうな…悪いけどこれ以上続けても意味がない。消滅するよりマシだと思って、今表示されてるアバターで転生させてもらうわ。」
「エ、ソンナ…セメテ、スコシデモ、イイジョブデ…」
管理者がアバターに手をかざした。消え行く意識の中で、優は表示されるアバターを見る。
ジョブ:盗賊(D)
え…よりによって…これ…?ちょっと、待ってくれ…!優は心の中でそう叫んだが、管理者には届かなかった。
思念体の優とそのアバターが少しずつ重なっていく。人形のように生気が無かったそのアバターに優の思念体が移り、新しい生命が生まれた。
「ま、上手くやれよ。それだけの根気があれば、きっとやれるさ…。頑張った褒美に、使いこなせるか分からんがオマケもつけといてやるよ。」
優には届いたのか、届かなかったのか、管理者はそう言い残して、新しい世界へ優を見送った。