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第35話 食糧と私

大猪の魔物を倒したことを確認してから、スイラがポーションを持って大ダメージを負った二人に駆け寄った。

今回は先程シズクに飲ませた即効性のあるものではなく、じわじわと効く遅効性のものだが、回復力はこちらの方が高い。

ユウが動けるようになるまでは少し時間がかかったが、魔物にやられた傷は取り返しのつかないものでは無さそうだ。

一方でシズクは先程重傷を負ったようには見えないほどの驚異的な回復力でピンピンしていた。




野営の準備は完全に陽が落ちてからになった。強敵を倒した高揚感と疲労感から、とりあえず食べて寝ることが出来れば十分だという結論に至る。



三人は遅めの夕食をとるために、簡易な野営地で焚き火を囲んだ。




「まさか、スイラが魔法を使えるなんて。教えといてくれよ。」


「残念。あれは魔法じゃないよ。魔法を模した商品なんだ。魔法が使えるならとっくにこんなとこにはいないよ。」


「あ、もしかして()()()()()?聞いたことあるかも。」


「正解だよ。術師の魔力を蓄積する樹木。大事な商品だったんだけどなぁ。」


「でもおかげで助かったよ。あれだけの魔法なら高価だったのか?」


「いやあれはまだ若木だから大した物じゃないよ。弱点属性を突けたから良かったけど。」


「にしても、良く弱点が分かったわね?」


「身体の特徴がレッドボアにそっくりだったからね。水属性に賭けて良かった。」


「凄いな。魔法スキルが無くても魔法が使えるってことか。便利なアイテムだ。」


「冒険者なら大体知ってると思うけど…もしかしてユウって世間知らず?あ、肉おかわり。」


「いや、まぁ…うん。ずっと田舎にいたからその辺には疎いんだ。」



素性を話すとややこしい話になりそうなのでユウは適当にはぐらかした。



「むしろそっちの剣こそ、凄いんじゃない?魔法剣なんて、めったに見たことないよ。」



野営地で先程ドロップした獣肉を焼いて食べながら話し合う。

強敵を倒した割に、大したアイテムがドロップしなかったことにシズクは少し残念がったが、命があるだけマシというユウの言葉には反論の余地が無かった。


「うぷ…。もうお腹いっぱい。巨大レッドボアのおかげで獣肉は山ほどドロップしたけど、こんなに食べきれないな…。」


「さすがにこれだけの量…ボクもこれ以上は食べられないや。」


大量にドロップした獣肉を見ながら二人が嘆く。生肉だけにすぐに鮮度が落ち、食べられるものでは無くなってしまうことは明らかだった。


「だから、さっきも言ったでしょ?()()ならダメだって。」


「さっきの食糧の話ですか?」


「そう。ねぇ、スイラ。塩ぐらいはあるんでしょ?」


「もちろん。今調理で使った分以外にも調味料はいっぱいあるよ。」


「やった!じゃあちょっと借りるわね。」


シズクが嬉しそうに笑い、ワークベンチに立った。

ユウとスイラは何の事か分からずにその様子を見ている。

シズクは細切りにした肉を手際よく並べていく。

塩漬けにしたそれを指差して、ユウに耳打ちした。


「…これに操刻、出来る?」


「え?そんなことして大丈夫ですか?」


「ほんの少しだけ時を進めて欲しいの。あ、スイラ、食糧欲しいなら、今から起こることは口外禁止ね。」


「ちょ、ちょっと勝手に約束させないでくださいよ。」


「ほらほら、早くコンパス出して。えーっと、スイラはこれで扇いでね。」


ユウは渋々コンパスを出して、イメージする。

肉を塩漬けにしてたってことは、多分干し肉だろう、現実世界ではジャーキーぐらいしか食べたことが無かったが、水分を乾かす程度の出来上がりをイメージする。


目を瞑って集中することで、コンパスがゆっくりとくるくる周り、塩漬け肉がぼうっと光った。


「できた…かな?」


「見た目的には分からないけど、私の理屈なら出来るはずよ。」


「ちょっと鑑定してみるよ。」


スイラはそう言うと、鑑定用の片眼鏡を掛けた。金色の鎖がチャリン、と音がする。

ユウとシズクはその様子を覗き込む。


スイラは肉に手をかざし、片眼鏡でじっと見つめた。


「おお。干し肉になってる!」


「やった!これで保存が聞くんじゃ無い?」


「うん。干し肉ならしばらくは腐敗しないからね。でも、こんな直ぐに干し肉になるなんて…一体どうやったの?」


「それについては…説明するとややこしくなるからまた今度な。」


スイラがチッと舌打ちし、残念そうに口を膨らませる。


「そんなことよりシズクさん、持ち主の俺より()()使いこなしてません?」


「まぁ、冒険歴がモノを言うんじゃない?それに私は()()があるからね♩」


「あぁ…嫌な予感しかしない。なぁ、スイラ。さっきの干し肉だけど、お前の協力があっての討伐だから、必要な分持っていっていいぞ。」


「え?そんなの、悪いよ。ほとんど二人の力だったしさ。」


「俺たちもこんなに干し肉ばっか要らんからな…じゃあ、代わりにさっきの()()()()()をいくつか譲ってくれないか?」


「うーん、それならいいよ。って言っても若木しか無いからそんなに効果は期待しないでね?」


「いいんだ。…ちなみに、若木ってことは熟成させると効果が高まるとか?」


「うん。でもそんなすぐには熟成されないよ。何年も掛けた奴はその分だけ威力を増すけど…。」


「そうか!いい事を教えて貰った。じゃあ、交渉成立だな。」



そう言って二人は干し肉とマイセの枝を交換した。

ユウは悪くないやりとりだと思い、それをバッグに仕舞い込む。




────────────


満点の夜空の下、三人はそれぞれテントに入った。

しかし、夜更けにスイラの寝床に向かう人影があった。

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