第31話 出会いと私
目的地に向けて3日目の昼、二つ目の山。
迂回ルートは気の遠くなる遠回りか、湖を泳いでいくかの二択だったので、素直に山登りしている。
「"シータ"の村だったよね?行き先。」
「はい、辺境の村って聞きましたけど、どれぐらい田舎なんでしょうね。」
「行った事はないけど、農業とか生地の織物とかでやってってる村ってのは聞いたわよ。」
「そんな村に、邪蛇か…。」
「ギルドも無いし、高齢化してる村だから、戦闘が出来る人員も限られてるだろねー。結構やばい状況なのかも。」
「強力な魔物だったら、一溜りも無いですね」
道中何度か魔物にも出くわしたが、低位のランクのものばかりなので、シズクの敵では無かった。
もちろんユウも援護し、着実に経験をこなした。
ここに来たばかりの時より、格段にレベルアップしている。
スキルや能力だけでなく、自分についた自信の方が、ユウを強くしていた。
自分の持つ能力とスキルをいかに使うか。それは鷹の目の選択肢を大幅に増やす。
山道をどれぐらい進んだだろうか、日が西に差し掛かった頃、思わぬ出会いがあった。
「ん?あれ人じゃないですか?」
「あ、ほんとだ。珍しいわね」
脇道に入ってからというものの、まるでシータの村への道筋が遮断されているかのように、人の往来が全く無かった。
2日ぶりに見る、自分達以外の冒険者のようだった。
「もしかしたら、シータの村の情報知ってるかもね?」
「行ってみましょう!」
人影を追いかけて木々を抜けた先に居たのは、魔物と対峙している小柄な冒険者だった。
少し目を引くものといえば、キャスケット帽を含めて、全身を山吹色でコーディネイトしていることだろうか。
遠目では性別すら区別が付かない。
「シズクさん、あれ多分戦闘中ですよ!」
「そだね。見た感じ子供みたいだけど、大丈夫かしら?」
近づきながら様子を見る。
どうやら猪のような魔物と交戦中のようだった。
「レッドボアかな、3体もいるから、ちょっと厄介。」
「なるほど、ちょっとマズいわけですか。」
「まぁ、私にかかれば大した事ないけど。」
助太刀をすべきか悩んでいるところ、山吹色の子供は声をあげた。
「ちょ、ちょっとぉ!見てないで助けてくださいよ!」
こんな危険な山奥にいながら助けを求めるとは、何事だろうかと思った時、ユウはシズクよりも早く行動していた。
牽制のための投擲を行う。
子供が声をあげたせいか、レッドボアの姿勢が変わり、ユウのナイフは3体のうち1体の右耳をかすっただけだった。
ユウの方へ向けられる敵意、だがそれで良かった。
「戦えないなら、隙を見て逃げろ!」
レッドボアの敵意をこちらに扇動して、子供を逃すことがユウの狙いだった。
かといって、ユウもその3体を相手にする実力も無かった。
チラリと横目でシズクに合図を送る。
「全く…。頼られるのは悪く無いけど!」
シズクがすぐに戦闘体制に入る。
これで三対三、数的には互角だ。
レッドボアのうち一体がこちらにいきり立って突進してくる。
シズクが回避のスキルを駆使し、ジャストのタイミングでそれを避ける。
レッドボアはそのまま突進のスピードを落とさずに通り抜け、シズクの射程から離れて向き直った。
完全に臨戦体制で3体とも鼻息を荒くしている。
ユウが片手剣を構えながら距離を詰めるが、その気配を察したのか、別のレッドボアが後ろから突進してくる。
「うご…!」
攻撃される前に気付いたので直撃は避けたが、左足から出血し、重心を奪われて倒れ込む。
「ちょっと!大丈夫?!」
「はい、ちょっと痛いけど、大したダメージじゃありません!」
「距離を取られるから、突進中に狙うしかないわよ!」
「でも、どうやって?!」
低い位置からの素早いタックルは避ける事で精一杯で、攻撃の隙など無いように思えた。
「こうやるのよ!」
向かってくるレッドボアに対し、シズクは身構えた。
進路を変えられないよう直前まで力を溜め、瞬間を見定めてそれを解き放つ。
「陸の形ッ!【碧】ッ!!、」
シズクは青白く光る右手を突き出した形で、向かってくるレッドボアに対峙し、そのままぶつかった。
凄まじい衝撃音と共に、レッドボアが地に転がる。
「すげぇ!とんでも無い力押し!」
ユウが目を丸くして言った。
向かってくる魔物に対して、真っ当から立ち向かっての力比べ。
さすがは武術家と呼べる領域だった。
しかし、残りの2体は戦意を失う事なく、尚もこちらに敵意を向けている。
ユウはシズクのような力技を持たないので、手にした片手剣を振るうが、上手くタイミングが合わず、突進は躱せたものの、空を切るだけでダメージを与えられない。
「攻撃と防御を一緒にしようと考えないで!」
「わ、分かりました!」
日常生活のがさつなシズクとは違い、こと戦闘に関しては経験や洞察に分があった。ユウに欠けていた部分を的確に指南してくれる。
ユウは決心して攻撃に集中する。
聖剣を使う事も頭に過ったが、それに頼っては自分の能力が伸びないと考えた。
防御の為の攻撃。
やられる前に、やる。
その思いがスイッチとなって、ユウの剣術スキルが発動した。
魔物の突進に合わせて、ユウは右足を踏み込んで剣を振り下ろし、その足を軸に横薙ぎに剣を振るう。
その斬撃は青白い十字の衝撃波を伴って、レッドボアを一閃した。
ユウは初めての感覚に自分以外の時が止まっているように見えた。
レッドボアが鮮血を吹いて、勢いのまま地を滑っていく。
「やるわね!」
シズクが身構えたままの姿勢でニッと笑った。
「あと一体、行くわよ!」
「はい!」
最後の一体の突進に対し、シズクがひらりと回避する。その先のユウが、先程習得したばかりの剣術スキルで薙ぎ払った。
確かな手応えと共に、レッドボアが真下に転がる。
自分の力で敵を打ち払うその感覚に、ユウは確実に実力が増している気がしていた。
戦闘を終えた二人は先ほどの子供を探した。




