3話 優柔不断と私
優は表示されたアバターとにらみ合っていた。
管理者と名乗った人物は、新しい生を自分の好きな見た目、職業で選べと言う。思いのまま、なりたい自分になれるということは普通の考えで言えば破格の条件であった。しかし、生来の優柔不断な性格である優にとっては悩みの種が増えたのである。
「思念体の持続時間もあると言っていたし、できるだけ早く決めないとな…」
重い腰を上げて、目の前のアバターを凝視する。すると、近くに文字が浮かび上がった。
ジョブ:剣聖(S)
スキル:燕頷虎頸(S)、極みの一閃(S)、心眼(A)、威風堂々(A)、疾風の太刀(B)
「なんかめちゃくちゃ強そう…でも一番初めに出たものを選ぶのも少し性急すぎるよな。」
優の思考を読み取ったのか、瞬時に目の前のアバターは色を変えた。
しかし、安易に他のアバターを選ぼうとした優もまた、早計であった。奇しくも今表示されていたのは、戦闘職ではほぼ最高ランクの物だった。また、一度キャンセルしたアバターは運良く次にまたランダムで表示されるまで、選びなおしというものができない。そのどちらも、優には知る由もなかった。
そうしているうちにまた、さっきとはまるで違うアバターが映し出された。
ジョブ:暗器使い(B)
スキル:四重奏(A)、鋭利な一撃(B)、武器の心得Ⅳ(B)、投擲(C)
「なんかマイナーそうなジョブだな、暗器使いってあんまり聞いたことないし…」
「そもそも、情報が少なすぎるんだよな。これからどういう世界に行くのか、スキルの効果すらもさっぱり分からん状態で決められるかっつーの!」
そんな優の不平不満を聞いているのかいないのか、アバターは次々と表示されていく。
ジョブ:ネクロマンサー(A)
スキル:霊魂再生(S)、呪符(A)、葬送(B)
「面白そうだけど、ゾンビとか映画でも苦手だしな・・・」
ジョブ:ファーマー(C)
スキル:大地の恵み(B)、サバイバル(C)、収穫(C)
「非戦闘系のジョブもあるのか。でもCランクってことは初めから苦労しそうな気がする。」
吟味という名の優柔不断ぶりを発揮し続けて、数時間。方向性すらも決まることなく、ネットショッピングで提示されるおすすめ商品を次々と飛ばしていくように、優はリセマラを繰り返した。
中々反応が無いことを心配したのか、管理者が再度現れた。相変わらず、不敵な笑みを浮かべた余裕の表情だ。悩みに悩んでいる優の気持ちなど、素知らぬように。
「随分と決めかねているようだな。」
「当たり前だろ!こんな大事なことすぐ決められるかよ!」
「さっきも言ったが、思念体にも時間の限りがある。それを忘れるなよ。」
管理者は釘を刺すようにそう伝えたが、優には逆に聞きたいことが山のようにあった。
「時間の限りって…具体的にどれぐらいの時間が残されているんだ?」
「それは私にも分からない。そうだな、思念体の意思の強さとか、気持ちの強さみたいなものが影響するが、実際に消滅するまで時間が掛かった奴は見たことがないから、はっきりとは言えないな」
「とにかく、急げってことか」
「私としても、そうしてくれるとありがたい。では仕事があるから、また。」
「おい!ちょっと待てよ!頼む!聞きたいことが…」
優の慟哭を聞いてか聞かずか、管理者はまたも音もなく消えた。
言いたいことは言った、そう言った素振りであろう。
どうしようもないので、優はまたアバターと睨めっこを続けた。