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28話 決意と私

実に久しぶりの更新となります。

リーナは使用人が使っていた古いローブに身を隠し、チグノーの街に出ていた。

伯爵令嬢として、ではなく、ただの市民としてだ。

邸宅を抜け出すことには少し策が必要であったが、体調が悪いと言う口実と普段の真面目な素振りからして、彼女を疑う者は居なかった。



あの盗賊は、今頃どこで何を──




居ても立っても居られない、その状況が彼女を突き動かしていた。



しかし、彼の事を探るには何も情報が無かった。

持っているのはユウ、という名前と盗賊だと言う事だけである。



自分より少し年上の、少し頼りない目をした青年。


その目は、盗賊のイメージには似つかわない物に見えた。


自分を救ってくれた事実には英雄にも思えたが、すぐにボロ雑巾を掛け直した。



彼は卑屈な盗賊。自分との約束をも、何とも思わずに反故にしているかも知れない。


ならば、その卑屈な姿を拝んでやっても良いんじゃ無い?



彼女は、自分が彼に取り付けた約束を守り、本当の英雄になる未来を心のどこかで期待していたが、そんな自分自身にもボロ雑巾を掛けた。



盗賊なんかに期待して、裏切られる事は、あっても許されないこと。


自分は、あの盗賊には何の期待もしていない。



年端も行かない少女が、自分の尊厳を守る為の精一杯の嘘であった。



────────────


領地の貴族が住むエリアを出て、南の市街へ出た。



「昼下がりの街は、こんなに活気のあるものだったのね。」


伯爵令嬢としてではなく、一般市民として客観的に街を見ることは凄く新鮮だった。


彼女の知っているチグノーは、家から知らされている範囲だけだったので、そう見えたのかも知れない。

実際は盗賊ギルドをはじめ、治安の良く無い場所も多数あったが、そんな街の裏の顔を理解するにはまだ経験が足りなかった。

光が強ければ強いほど、その影は濃く落とす。


自分の父が納めている領地がこんなに、素敵な街だなんて。

そんな風に純粋に思っている彼女にとっては、裏の顔など知る由も無かったのだ。




とにかく、自分に許された時間は少ない。

休息をとっている名目で出入り禁止にしてある自分の部屋も、父や母、兄達に掛かれば、それは鍵が無い部屋と同然だった。


一刻も早く、あの盗賊を見つけて、部屋に戻らねば。


そう思うと彼女の足は独りでに、早くなっていった。




木を探すなら森の中、盗賊のギルドでユウのことを尋ねる事も頭の片隅に浮かんだが、彼女は護衛はおろか従者も付けず、ましてや伯爵令嬢という鎧も着ていないただの少女という状態だったのでやめておいた。リスクは避けたかった。


そう思って、出来るだけ人の多そうな商業街で手掛かりを探すことにした。


しかし目に入るのは、商売人や冒険者のやりとりがほとんどで、期待しているものは見つからなかった。


伯爵令嬢というフィルターを通さない一介の少女が、この街で目当ての一人を探すには干し草の中から針を探す事に等しい。


「お嬢ちゃん!邪魔だよ、どきな」


「きゃっ!?」


金を持ってなさそうで、見たところ冒険者でも無さそうなリーナは商売人達にとって、ターゲットでは無かった。


軽くあしらわれながらも、勇気を出して聞いてみる。


「あの、ユウという方をご存知ありませんか?」


「知らないね。それよりも何か必要な物ないの?」



こんな不毛なやり取りが続いた。

駆け出しの冒険者であるユウのことなど、数多の客の一人で覚えている店主などいなかった。



ただ時間だけが迫ってくる。

──もう、屋敷に戻らなくては。脱出が見つかってしまっては、二度と抜け出す機はこないかも知れない。


そう思った時だった。

商店の店先に、見知った盗賊と若い女のペアが何やら話をしていた。

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