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27話 逃走と私

「まずい、非常にまずいぞこれは…。」


二日酔いで目覚めたユウは酔いも覚めるほど焦燥していた。




昨日、シズクに連れられたバーで、操刻のコンパスを活かして100年モノにも匹敵する美味さの酒を生み出したのまでは良かった。


酒はとにかく美味かった。異世界に来て、睦月先輩に似てるとはいえ、美女とそれを楽しめた。




問題はそこからだ。


ユウはどこをどう帰って、自分の寝泊まりしている宿に帰ってきたのかもろくに覚えていないし、何故隣に昨日一緒に飲んでいたシズクが隣で寝ているのかも、全く記憶になかった。




更に問題なのはもう一点。


この若い女が半裸同然で自分のベッドにいるということだった。


覚えてはいないが、一夜の過ちがあったのだろうか。




まずい、非常にまずい。




普段奥手なユウはこういう事態にまるで慣れていなかった。



(こういう時はあれだ、えっと、鷹の爪、じゃなくて鷹の目!)



起こさないようにシズクに服を着せておくか?

何くわぬ顔して、おはようと声を掛けるか?

死んだフリをしてやり過ごすか?

それともこの場から逃げて無かったことにするか?




ユウの危機を察知したのか、戦闘でも無いのに鷹の目が作動した。


大半がグレーのリングを表示しており、盗賊のもつ予知の結果、その選択肢は絶望的ということが示されている。


どの選択肢もユウの希望が叶うものは限りなく0に近いと言える。



その中でも唯一、可能性がありそうなものがあった。

ほぼグレーに近いが辛うじて黄色を示している、部屋の出口であるドアノブであった。


それに向かって、ユウは音を立てずに歩き出した。


この時ユウは盗賊のスキル、『忍び足』を習得していたが、本人はまるでそんなことには気付いていなかった。





──────────




やっとのことで食堂に辿り着き、内心ハラハラしながらも、何くわぬ顔でアカリから出された朝食を食べ始めた。




本日の朝食のメニューはパンとトマトスープ、そしてコーヒーだ。


毎度毎度超絶美味いメニューではあるのだが、今日は味よりもシズクへの罪悪感と、バレて怒られるのではないかという恐怖心が胸を巣食っており、正直味を楽しめるような余裕はなかった。


口が乾いているのか、パンすらもスープやコーヒーがないと飲み込めないほどだった。



「ぼうけんしゃさん、かお、あおいですよ?むりしちゃ、だめですよ。」



女将の娘、アカリが心配そうな顔をしてユウに話しかけた。


ユウは悲鳴に似た、ヒィッ!と情けない声を掛けてそちらを見直す。



「あぁ…アカリちゃん。ごめんよ。大丈夫。無理してないから…。」


「あきらかに、よーすがおかしいですよ?きのう、なにかありました?」


「え、えーっと…なにもない…かな?」



こういう時の女の勘というのは恐ろしい。例え、幼女であってもそれは関係無かった。




「だ、大丈夫だから!心配しないで!」


「むー…わかりました。なにかあったら、ちゃんとアカリやお母さんに、そうだんするんですよ。」




アカリは頬っぺたを膨らませて厨房の方へ去っていった。

冒険者の世話をして生計を立てている母の血筋だろうか。

彼女は彼女なりに仕事への責任感があるようだ。




そんなことをしているうちに、シズクが食堂にやってきた。



「ふぁ〜っ…おはよう。」


「あ、おはようございます…。」


シズクは一応部屋着に着替えてきている。しかし、ユウは目を合わせられずにいた。



「昨日は、ちょっと飲みすぎたね。おかげでよく寝れたけど。」


「そ、そうですね。俺もバーで飲んだ後の記憶が無いです。」



ユウは白々しく、相手の出方を待った。



「そうなの?あんたあれから大変だったのよ?」


「え…それはどういう…?」



まずい、どうやらシズクは昨夜のことが記憶にあるようだ。

こちらが何も覚えていないというのは、分が悪い。



「あんたフラフラだったから、部屋にも戻れなくてさ。とりあえず私の部屋に連れてきたんだけど、『おうちに帰りたい』だの、『管理人さんのせいだ』だの、よく分からないことを泣いたり、落ち込んだりして、ほんと面倒くさかったんだから。」


「え………そんなことが…。」



シズクから聞かされた答えは予想だにしないものだった。

恥ずかしい半面、ユウは内心良かったと感じていた。

まぁ、こんな奥手なユウが酒で酔った途端、野獣と化すようなことは無かったが、ユウの心配事は杞憂に終わった。



「す、すみませんでした!以降は酒には気を付けます。」


「いや、思ったより可愛かったから、別にいいよ?」



全く、この女にはまるで歯が立たない、とユウは思い、食べかけの朝食を終えた。



「昨日、思ったことがあるんだけどさ。」


「え?は、はい…。」


「時を進める術さ。商売にならないの?」



昨夜の失態を怒られると思っていたユウにとって寝耳に水な話だった。

ユウにとっては、拾った装備品を売るという行為が、もう商売染みたものであったが、シズクはさらにその先に進んでいるようだ。




「昨日考えてた酒も、100年ものとして売り出したらかなりの高額がつくと思うし、それ以外にも、ヴィンテージ物って何かと価値がありそうじゃない?」


「確かにそうですけど…。それって転売になりません?」


「あー、それもそうかぁ。商工ギルドが黙っちゃいないわね。」



至極真面目なユウを差し置いて、シズクは頭の中でそろばんを弾いていた。



「でもそれについては、ちょっとアテがあるから、そこを当たってみる!」


「なんか、良い予感がしないなぁ…。」



ユウはコーヒーをすすりながら、そう呟いた。

確かに、アイテム拾いで金を貯めるよりは安定した収入があった方が良い。

ただ、シズクの企みはなんだか法に触れそうな気がして、気乗りしなかった。


「ふー、ごちそうさま。あんた、今日はどうするの?」


「今日は装備を整えようと思います。」


「このあたり回るなら、その装備でも悪くないと思うよ?」


「いや、実は目的があって…。」



ユウは以前令嬢を救ったこと、また、盗賊であることからあらぬ扱いを受け、邪蛇の討伐を依頼された事を明かした。

そして、邪蛇の討伐が目標であることも。




「ギルドといい貴族といい、盗賊って酷い扱い受けるんだね…。そんな要求、無視したら良いんじゃない?」


「いや、でも自分が納得いかないんです。身寄りも無いので、貴族と親しくしておくのも悪くないかと思って。」


「それもそうね。私も協力させてくれる?」


「いや、これは俺個人の問題なんで…。」


「水くさいわねー!私達パーティでしょ?断られても、一緒に行かせてもらうわよ!」




こうなると、もうユウにはシズクにいい聞かせる術を持たなかった。

そして言いくるめられるまま、パーティの目標として邪蛇の討伐、ということになる。




──────────




なんとか、ユウはシズクを振り切って街の商店街に来ていた。

前に来ていた時に、気に入っていた装備があった。

その時は手が届かなかったが、操刻で拾い物を売り捌いた結果そこそこの所持金を手にしていたので、法外に高いもので無ければ大体のものは手に入る。




ユウは目当てであった店では高級な部類に入る軽鎧を中心とした一式装備を購入した。


試着させてもらったが、動きやすく、しなやかで良い感じだ。

ランクの高い魔物の素材だけあって、耐性や単純な守備力も中々の物だった。



以前の装備は下取りを提案されたが、操刻で新品にすればより高く売れそうなので引き取っておいた。少々ケチ臭い話である。




一通りの買い物を終え、ベンチに腰掛けたユウは一息をつく。


「目当てのものは揃った。そろそろ、邪蛇の討伐…行ってみるか。シズクさんが来ると言い出したのは意外だったけど…。」



そう思いながら、シズクとの朝のやりとりを思い出す。

頭に浮かぶのはベッドに寝転がる半裸同然の姿。



よからぬ想像にユウは目を瞑り頭をブンブンと振る。いけない。パーティメンバーだというのによからぬ想像はだめだ。



そもそも、シズクはユウとは違ってちゃんと意識を保っていた。

飲みすぎて、我を忘れていたのは自分の方なのに。


恐らくこの異世界にやってきた不満や不安が爆発したのだろう。

それをシズクは受け止めてくれていたのだ。



「いや、待てよ…ならどうして、シズクさんは裸だったんだ…?」




ユウの頭にまた新しい謎が残るのであった。

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