23話 守護者と私
遺跡の最深部、広間の中央に置かれた、その仰々しい大箱。
棺のような見た目のそれにシズクは完全に震え上がっていた。
強気な女のその必要以上に怖がる姿を見て、心配性のユウは逆に勇気が出た。
そして、その大箱を開く。
砂埃が舞い上がり、大箱の中に眠っていたのは干からびたミイラ──ではなかった
「剣?」
ずっしりと手にくるその金属の塊を手にして、ユウが呟く。
首と嘴の長い、鳥のようなものが刻印されたその重厚な剣は、長い時が経っていようとも触ると寒気がしそうな感触があった。
聖剣【千鶴】 (S)
ユウの頭の中にアイテム名が表示される。
「おおおSランク!!」
「えぇ?!Sランクって遺産級か国宝級ってこと?!」
「よ、よくわからないですが、そのSランクです!」
「凄いじゃない!遺産級なら売却するだけで一生遊んで暮らせるって聞いたことあるわよ!」
話しているうちに、鳥の刻印が青白く光った。魔素の為せる技術なのだろうか。
それと同時に、石畳の部屋全体がズシリ…と揺れた。
「…え?何?!」
地震の影響か、天井からパラパラと小石が舞い散る。
その地震は定期的に続いた。
「は、早くここから出た方が良いです!」
ユウの叫びと同時に、先程の壁画に描かれていた守護者の一つ目が赤く光ったかと思うと、天井を突き破ってそれは現れた。
「グオオオオォォォォ……!!!!」
どこから声を出してるのか分からないが、規格外に大きさをもつそれは唸っていた。
よたよた、と顔と体のバランスが釣り合っていない、不自然な足取りだが、確実にこちらに近づいてくる。
「どうしよう、やばいよ!」
「とりあえず、出口に向かいましょう!」
咄嗟にユウとシズクは二手に分かれて退路に向けて走った。
ちょうど、守護者の両脇を挟むような形で駆け抜ける。
鈍重ながらも守護者はユウの方向を見ながらくるりと振り返った。
その大きな手がユウに向かって伸びる。
「どっちに逃げればいい?!」
ユウは頭の中で選択肢を繰り広げた。
『鷹の目』がそれに呼応して演算を始める。
ユウはあえて背を向けずに、ゴーレムの股下に転がり込んだ。
普段のユウなら恐怖から絶対に出来ない行動であったが、『鷹の目』で一際濃い青に表示されていたので、逃げ果せる可能性は一番高いのだろう。
一瞬、守護者はその目標を見失ってもう一度地の底から這い出したような咆哮をあげた。
「やはり、この剣を狙ってやがるのか!?」
守護者の股下からユウが転がり出た。
一つ目の死角に入るように移動しながら動く。
尚もその剣の鳥は青白く光っている。
ユウは剣を投げ捨てることも考えた。
しかし『鷹の目』は灰色にリングを付けている。
この選択肢は無駄だった。守護者はその宝物を手にしたユウに反応し、起動している。
その剣を手放したところで、目を覚まさせた対象に対する攻撃は、止まらない。
守護者がユウの所在を探して、向き直るその時、シズクが地を蹴って果敢にも攻撃を繰り出していた。
「弍の形…【陽岡】ッ!!!」
シズクは地を蹴った反動で上昇しながら二段蹴りを繰り出した。
武術家として身体の向上した、武術Ⅲ (B)のスキルであった。
身体の強化のみでなく、身体の奥から出た闘気も浴びており、その蹴撃は低位の魔物はおろか、直撃をすれば中位の魔物にすら大ダメージを与えるスキル。
「ち、直撃したのに?!」
守護者に与えたダメージは皆無だった。
攻撃を受けたことを全く意に介さない様子で、守護者は歩き始めた赤子のようにヨタヨタとユウの後を追う。
歩く度に揺れが発生し、パラパラと砂埃が舞い降りる。
その地響きに二人は体勢を崩しながらも、距離を取っていく。
ユウもまた、シズクと同じように隙を見て投擲を繰り出したが、その身を貫くことは出来ずにナイフはチリン、という音を立てて守護者の足元を転がった。
ユウが考え得る選択肢を選び取っている最中、守護者の目が強く、赤い光を発した。
「うわっ!!!やばい!!!」
赤い目は下から見回すように上に向けられた。
直線状の赤い光線が下から上へ薙ぎ払われる。
寸でのところで直撃を避けたユウであったが、その光線が通ったところに、はっきりと焦げ付いた跡が付いている。
床を焦がし、壁を通って天井まで続く一本の道となっている。
「あんなもの受けたら、一溜りも無いな…」
鉱石のような硬さを誇る守護者にダメージが与えられない。
それはあえて、そうして作られたのかもしれない。
「だめ!やっぱり逃げよう、ユウ!」
守護者越しに向こう側からシズクが叫ぶ。
目が合うと彼女はここに入ったドアに走り出していた。
ユウは守護者の狙いがそこへ向かわないように撹乱しつつドアを目指す。
再度、守護者の目が強く赤く光る。
「シズクさんッ!危ない!!!!」
守護者が大きく左に向いた。次に来るのは縦方向の薙ぎ払いではなく横方向だと予測したユウと『鷹の目』は安全な地を探す。
「壁に向かって跳ぶんだ!!」
その声に従い、シズクは三角飛びの要領で地を蹴り、壁を蹴り、より高い位置で宙返りをする。
先ほどまでいた足元が守護者の熱線によって焦げている。
守護者を中心に円形に、焦げた道が作られた。
着地したシズクは次の熱線が来る前にドアへと走り、手を掛ける。
「ぐぎぎ…………開かないっ?!?!」
シズクが歯を食いしばってドアを力任せに開けようとしているのが見えた。
恐らく、罠の発生と共にロックされたのであろう。
その解錠は守護者の討伐にのみ、果たせられる。
「成す術無しか…!」
絶望するユウの元に、クールタイムを終えたその一つ目が三度、赤く光った。
次は、縦か、横か、それとも見たこともない攻撃が待ち受けているのか。
その刹那、ユウが右手に持っていた、先程の剣を包むように現れる大きな赤い輪。
『鷹の目』が選び取った答えであった。
ユウは反射的にその聖剣を左から右へ薙ぎ払った。
紋章の鳥が青白く光り、その切っ先から半透明に光り輝いた鳥が飛び立った。
「これは…鶴?!」
そうユウが呟くよりも先に、光の鳥の群れは守護者の一つ目に向かって突進していた。
突進がその目的地に到達する度に大きな衝撃波と青白い光が巻き起こる。
この強敵に対して初めて与えることができたダメージであった。
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