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22話 遺跡と私

「シズクさん、今から見ることを他の人に言わないって約束してくれますか?」


「え、どうしたの急に?」



鍵を開けるのを諦めて尻餅を付いていうシズクに対し、ユウは目線を合わせる形で跪き真剣な顔をして尋ねた。




「俺に、このアイテムの価値はよく分からないんですけど、他の人に狙われたりするのも嫌なんで。」




そういってユウはアイテムボックスから操刻のコンパスを取り出した。




「シズクさんなら、他の人には秘密にしてくれると思うのですが。」


「分かったわよ。突然過ぎて、何か分からないけど、あんたがそんなに真剣に言うなら、私も約束するわよ。」



気が弱そうで、人の良さそうなこの年下の男に、そんな風に真剣な顔で詰められることは意外だったので、シズクは顔を少し赤らめて同意した。



(まさか、盗賊から、約束を取り付けられるなんてね。)



シズクは心の中でそう思って、微笑んだ。この男は本当に、盗賊とは遠いところにいる。


前に、暗殺者(アサシン)の素養があると言っていた自分の発言を少し、後悔した。



「やっぱり、シズクさんは思った通り、信じられる人だ。」


ユウもまた微笑む。

何が起こるか分からない遺跡への入り口だと言うのに、この二人はどこか長閑だった。



ユウが操刻のコンパスを古びた鍵にかざす。

これなーに?とシズクが尋ねるのを尻目に見ながら、ユウは真剣な眼差しでイメージを紡ぐ。


瞬く間に鍵は光に包まれ、造られたその当時のままの輝きを取り戻した。



「え、凄くない?なんなのこれ?」



シズクがコンパスを覗き込む。



「操刻のコンパス、というアイテムらしいです。かざした物の時間を戻したり、進めたりできると聞きました。」


へー、と感嘆しながらまじまじとコンパスを見つめるシズク。


「これ、私に使ったら若返る?」


「前に使ったら、老人が赤ちゃんにまで戻りましたが、やってみましょうか?」


平気な顔で嘘を吐きながらシズクにコンパスをかざす。


「ちょ!待って待って!やめてよ!!」


「嘘ですよ。生きている物には使えないみたいです。」


「まじで……ちょー焦ったわ。あんたちょっと慣れてきたわね。」



コンパスからうずくまって逃げる様子をユウが笑う。

先程までの戦闘のそれとは程遠い姿だったが、霊獣との一件といい、この女性は年相応の可愛らしい一面があるようだ。



「そろそろ鍵、試してみましょうか。」



再度その手に鍵を取って鍵穴に差し込む。

重たいことには変わらなかったが、その鍵は90°に倒れた。


そのまま重厚な扉を押し開ける。


古びた石畳のような一室が姿を現した。



「すごーい!ワクワクするね!」


「見た感じ、魔物の類はいなさそうですね。」


「長いこと開けられてなかったみたい。」



辺りを探りながら、奥へと進む。

階段から漏れていた日の光が消え、薄暗くなる。

シズクは暗さに不安になったのか、ユウの近くに身を寄せた。



「なんでしょう? あれ。」



薄暗い中にぼんやりと光るものが見えた。

シズクが近寄ってそれに触れようとする。



「危ないですよ!何でもかんでも触っちゃ──」



心配性のユウとは対照的にシズクは考えなしに動くタイプであった。

女の勘、というものであろうか。

シズクがそうして引き寄せられるように動く時は、意外と良いことも訪れる。

その光源に触れることがスイッチとなり、遺跡の内部が優しい光で照らされた。



「光…?蛍みたいだ。」


「綺麗ねー!原始的だけど、魔石のランプかしら?」



聞けば、魔素の力を利用して光を灯したり、動力にしたりできる原理があるらしい。

魔法技師、と呼ばれる職業によってそれは作られる。

相当な技術が必要で、その職に就くには高位の魔法使いである必要があるという。


ユウは電気のようなものか、と自然とそれを受け入れられた。

ふと、オークと戦った際に手に入れた魔石を思い出す。魔素を蓄積できるそれは、いわばバッテリーや乾電池のようなものであった。




ユウが大きな蛍、と表現したその光は、優しい光だがしっかりとそのいく道を照らしてくれた。



──────────


魔石のランプで照らされた石畳を、道なりに歩いていく。トラップや魔物の類には出会わなかった。


そして、再度大きな扉が現れ、それを押し開くとダンスフロアのような大きな広間に出た。

周りは石畳で覆われており、完全なる密室である。

部屋の隅がそれと分かるように魔石のランプが光を灯している。

壁にはところどころ、壁画のようなものが書かれており、一際大きな物は天井に届くほどの大きさで描かれていた。



「ゴーレム、かしらね。」



シズクがそう呟いた大きな壁画は、長方形のブロックのような馬鹿でかい顔に一つだけの目が描かれ、その顔とは不釣り合いな小さな体をした魔物のようなものだった。



「昔、戦いか何かあったんですかね?」



ユウのその問いは半分当たりで半分はずれであった。

この遺跡を作った太古の人間は、それを守護者(ガーディアン)と呼んでいた。



「あ、あそこ。絶対怪しくない?」


「ほんとだ。あそこだけランプの光が強い気がします。」



部屋の奥、中央に位置された場所に一際明るい場所があった。

仰々しく、ランプが二つ置かれたその場所は小さな階段のようになっていた。


そこには、大きな棺のような箱が置かれている。




「わ、私、怖いのはちょっと、に…苦手なのよね。」


「ミイラでも入ってるんすかね。これ。」


「ちょっと、ユウ開けてみてよ。私遠くにいるから。」


「えぇ?!嫌ですよ!俺も怖いのはあんまり好きじゃないし。」


「でもここまで来て引き下がるつもり?」


「そう言われてもなあ…。」


「もしミイラなら、きっと死んでるわよ!」


遺跡に入るまでのスリルを楽しんでいる様子はどこへやら、シズクは怖さのあまり支離滅裂なことを言い出した。


うん、ミイラなら多分死んでいる。


ユウは笑ってしまいそうになりながら、勇気を振り絞って、その大きな箱に手を掛けた。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

次回は土曜日更新予定です。

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