21話 武術家と私
目的地である森に辿り着き、地図で示した遺跡に向かうユウとシズク。
ユウにとってはこの世界で初めて共闘するパーティ、そしてパートナーであったが、初めて目にする武術家のスキルは驚きの連発であった。
低位の魔物ならば、一撃で葬れる程のスキルによる火力。
そして強力な範囲攻撃。回し蹴りの要領で、くるくると身体を回転させ、その蹴撃には真空波が伴った。生身の体でこんなことまでできるのかと、ユウはその目を疑った。
スキルや体術の類だけが凄いのではなく、その魔物に対応した技を繰り出したり、相手の隙を突いたタイミング取りなど、戦闘における戦術的なものもシズクは優れているのだろう。
私が付いているから大丈夫、といった言葉は伊達じゃなかった。
正直、今まで起こった戦闘の殆どをシズクが処理していた。
気配察知にも優れており、ゴブリンや巨大な蜂などの相手にはほとんど先制攻撃を掛けることができている。
ただのお荷物のなるのは申し訳ないと思ったユウも戦闘の中で自分のすべきことを探る。
仕留め損なった魔物や遠距離への牽制などはユウの投擲が活きた。
絶死の蟷螂を屠った『グレートスロー』は再度発動できなかったが、『投擲Ⅱ』にスキルアップしたことで、投擲事態の攻撃力も上がっているようだった。
「割とバランス良いのかもね?私たち。」
古いキャンプ地で飲み物を飲んで休憩しながらシズクが呟く。
いくらか戦闘を繰り返してきたからか、その額には汗が浮かんでいたが、全くダメージは受けていない様子である。
「ほとんど俺、役に立ってない気が…。」
「そんなことないわよ!きちんとスキルから逃れた敵を仕留めてくれてるし、牽制も相手の動きを読むのに助かってるわ。」
「そういっていただけると、助かります。」
「それに私、一人で突っ走っちゃうところがあるからさ。前衛が多くいると、噛み合わなくてかえってやり辛いのよね。」
「なるほど、そういうのもあるんすね。」
初めてパーティを組むユウにとっては、シズクのその一言一言が勉強になるものであった。
ここに来る前に、きちんと戦闘に対して打ち合わせをして来れば良かったのだが、なんとかなる、というシズクの一言にそれ以上突っ込めずにいた。
確かに戦術については、話すより実際に経験する方が数倍身になる。
「あ、あれ…?」
話していると突如、シズクの目が見開かれる。
敵襲か、と思いユウは咄嗟に身構え、シズクの視線の先を睨む。
そこいたのは獰猛な魔獣──とは程遠いクリーム色をした耳の長い動物のようなものだった。
「ポ、ポテだ!!」
「ポポテ?」
「違う、ポテ!」
両手を握り顔の前で二つ合わせる。
シズクのその姿にユウは困惑した。
この魔物は、危険なのか?それとも大丈夫なのか?ユウはすぐにでも答えが欲しかった。
しかし、シズクの対応を見ているとすぐに答えが分かった。
「おいで!おいでおいで!」
しゃがみ込んで、私は怖い人じゃないよ、と言わんばかりの姿勢で手をこまねいている。
ポテと呼ばれたその生き物はその体を揺らしてこちらにやってきた。
「一頭身の生き物が…存在するなんて…!」
「何難しいこと言ってんのよ!ポテが逃げたらどうするのよ?」
ふさふさの毛に覆われた、うさぎのような顔をした生き物。果たして、これも魔物の類なのだろうか。
見るからに草食です、と言わんばかりの優しく穏やかな顔をしている。
「か、可愛い…!」
「ちょー可愛いよね!私も小さい時、絵本でしか見た事無かった!ほんとにいるんだね。」
「こいつも、魔物なんですか?」
「違うよ。この子は霊獣。森の精霊みたいなものかな?」
寄ってきたポテを撫でながらシズクは続ける。
気持ち良さそうにしているポテを見て、シズクも自然と笑顔になる。
見るからに、すぐにでも魔物の餌になりそうな姿をしているが、シズクによれば霊獣は守護の加護が掛かっているそうで、魔物に襲われることは無いそうだ。
植物を育てたり、魔素を浄化する不思議な力をもっているそうで、森の中では掃除屋さんのような役割らしい。
連れて行きたい、というシズクを説得するのに、大分時間が掛かった。
可愛い捨て犬を見つけた少女のように駄々をこねるシズク。
この姉御気質な女性にこんな一面があるとは。ほんとに睦月先輩のようだ、とユウは少し懐かしくなる。
ようやく説得と、ポテとのお別れをして森を奥へと進む二人。
定期的にずるずると未練の残った声をシズクが漏らしていたが、ユウはそれを聞き流しながら、遺跡に続く階段へと向かった。
そして、目的のそれは現れた。
草木が茂り、何も無さそうな場所。
人工的な階段がその不自然さを醸していた。
「ここ、ね。」
「多分そうです。」
「なんかただならない気配がするわよ…。ゾクゾクする!」
言葉とは裏腹にシズクは笑顔だ。結構スリルを楽しむタイプかも知れない。
きっと深い付き合いになると色々と面倒ごとが起こりそうである。
二人は揃って階段を降り、重厚な扉の前に来た。
ユウがアイテムボックスから古びた鍵を取りだし、シズクと目で相槌を打ってそれを鍵穴に差し込む。
ピッタリだった。恐らく、手記で書かれていたものに間違いない。
鍵穴に鍵を挿したまま、しばらくの時間が経った。
ユウは難しい顔をしたまま微動だにせずにいる。
「ねえ、あんたいつまでそうしてるつもりなの…?もしかして怖気付いた?」
長時間鍵を挿したまま静止しているユウに、堪らず声を掛けるシズク。
「いや、違うんです。鍵が回らなくて…。」
「え?ちょっと貸してみなさいよ。」
ユウと交代し、鍵に力を込めるシズク。
「ちょ、そんなに力入れたら壊れますよ!」
「大丈夫よ・・・ぐぎぎ・・・!!」
「ああぁぁ…!壊れたらどうするんですか!!」
「そんな馬鹿力って言いたいわけ・・・!!ぬぬぬ・・・!!!」
歯を食いしばり鍵を回そうとするが、まるで開かない。
鍵は劣化して錆びつき、その役目を終えていた。
「もしかして、ここまで来て入れないってこと?!」
鍵を開けるのを諦め、尻餅をつくシズク。
扉はうんともすんとも言わずに佇んでいる。
ユウは一息、考えてシズクに声を掛けた。
「シズクさん、今から見ることを他言しないって、約束してくれますか?」
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