20話 妨害と私
食堂でのシズクとのやり取りを終えた後、数日が経った。
ユウはあれから森や街を行き来し、随分とこの世界の生活力を身につけていった。
森で拾ったアイテムの操刻を続けていたが、同じ場所ばかり探索を続けてもすぐにアイテムは枯渇するので、様々な場所を巡っているうちに森の簡易的な地図も描くことができた。
そして森の中心部で偶然、それを見つけることができた。
古びた階段である。草木が茂り、ほぼ廃墟と化していたが明らかに人工的なものである。
階段を降りると、重厚な扉があり、それは押しても引いても開かなかったが、恐らくこの前見つけた鍵が必要なのであろう。
シズクとの約束があったので、その日の探索はそこまでにしておいた。
強力な魔物が現れた時に一人では危険が伴う。
ユウはその場所を地図に書き示して、森を出た。
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街での生活は、質屋通いも板に付き、順調に資産を増やしていくことができた。
同じ質屋ばかりを利用するのも気が引けるので、馴染みの質屋を増やしていく。すると、同じ商品でも買取に随分差があることにも気付いた。
そんなことをしているうちにユウは金貨5枚に相当する程の額の資金を得ることができた。
金貨3枚が平均月収であるこの世界では、結構な大金だ。
当面の宿泊や冒険の準備には困らなさそうである。
管理者からもらった操刻のコンパスでこんな小銭稼ぎをしているとは、アイテムを送った当の本人には思いもよらないだろう。
そして、ユウはシズクと約束したその日を迎えた。
「いよいよね。もう準備はできてる?」
「はい。でも危険があったら、すぐに帰りましょうね。」
「大丈夫だって〜。私が付いているんだから。」
心配性のユウをよそに、知らない場所に旅立つというのに、シズクはどこか楽しそうにしている。
「ついでに魔物も狩れれば、多少のお金にもなるかもしれないから、ギルドに寄っとく?」
「そうなんですね。知らなかった…。」
「あんた今までどうやって生活してきたのよ…?」
シズクはユウを街の中心部にある大きな建物に連れて行く。
煉瓦と思しき建材で建てられたその建物は、大きな門が開かれ、どっしりとしているようだが、行き交う人が多く、その重厚さとは裏腹にどこか入りやすいような雰囲気を醸し出していた。
入館すると冒険者受付、と書かれたプレートが目に止まる。
シズクの案内によれば新人はそこで、このギルドで活動する為の登録と小額の保証金を収める必要があるらしい。
登録用紙に記入し、窓口に持参する。
受付嬢は事務的にそれを手に取り登記用の台帳を広げた。
そのまま判子を押してもらえると思ったが、少々お待ちください、の言葉と共に申請用紙を持って奥の部屋に消えた。
「おかしいわね?私の時はすぐに許可が出たのに。」
氏名や性別、年齢、職業だけしか書く欄が無かったのに、何か怪しむべき要素があっただろうか。ユウは首を傾げる。
戸籍などを書く欄があれば、この世界でそれを持たないユウは不利だが、そんな事は無かった。
やがて、奥の部屋から先ほどの受付嬢と、この世界の正装なのかギルドの制服とはまた違うかしこまった服を着た男が出てきた。
長身に焦げ茶色の長髪。蓄えた髭と彫りの深い顔立ちがただ者ではない風格を醸していた。
「君の冒険者登録は許可できない。引き取りたまえ。」
開口一番、その大男は険しい顔でユウを見下ろしたままそう告げた。
突然のことで呆気に取られていたユウの代わりにシズクが声を上げた。
「どうしてよ?何か不備があった?」
シズクがやや攻撃的に尋ねる。
「【盗賊】の領内での活動は許可できないと言っている。」
「は?今までそんなこと聞いたこと無いわよ。」
「領主の意向もあり、議会で決まったことだ。さぁ、引き取りたまえ。」
この高圧的な態度は面倒な客を早急に引き払おうとするそれであった。
「いや、俺は成り行きでこうなっただけで、殺しはおろか、盗みも荒らしもしてませんが、だめなんですか?」
「【盗賊】そのものが駄目だと言っている。」
「おかしいわよ、そんなの!犯罪歴のある者ならともかく、適性で職業を選んだだけじゃない!」
「経緯は私の知ったことじゃない。とにかく、泣こうが喚こうが許可は下りない。」
こうなったら、どうしても無駄なのは明白であった。
いくら足掻こうとも、この地位の高そうな男は動かない。
ユウとシズクは渋渋ながら諦めてその場を去ろうとすると、その男はこう言い放った。
「【盗賊】風情が、この街にいること自体が煩わしい。盗賊は盗賊ギルドだけで細々と断罪を待つといい。」
ユウ以上にシズクがカッとなっているのを感じたので、ユウはシズクが暴れまいとその手を引いてギルドを後にした。
「何あれ!?ちょームカつくんですけど!」
「まぁまぁ、ギルドにはギルドの都合があるんでしょうし…。」
「よくアンタ黙ってられたわね!あーもう、自分のこと以上にムカつく!」
ユウは理不尽なことをギルドに言われたことよりも、シズクが親身になって怒ったり、心配してくれていることの方が嬉しいかった。
この人は、真っ直ぐだ。きっと面倒見が良い人なんだな、と呑気にそう思った。
一方でシズクは冒険者ギルドで活動できないとなると、この前途有望な新人はどう生きていくのかを心配していた。
盗賊として野盗や山賊の類に身を落とし、生きていくしかないのか。こんな優しそうな男に、それが務まるわけがない。
「でも、盗賊がダメだってだけで、探索者や暗殺者にランクアップできればその対応も変わるかもしれませんし。」
「ランクアップはそんな簡単なものじゃないわよ…?人によっては何年も同じままでいる人もいるんだし。」
「でも、それを目的に頑張れば、いつかは報われるんじゃないですか?」
「まぁそれもそうね。アンタって意外と向上心のあるタイプだったのね…。」
ユウは笑って誤魔化す。まだここに来て数日だ。うまくいかないことだってあるだろう。
現実世界で社会の波に揉まれてきたユウにとっては、こんなことはよくある、と自然と思うようになっていた。
その考えは、最悪の事態を常に考えている優柔不断な性格から来ていたのかもしれない。
しかし、これでランクアップへの明確な目標が出来たことも事実であった。
気持ちを切りかえ、二人は目的地であった森へと旅立つのであった。
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