18話 発見と私
「ここまでか…っ?!」
振り下ろされる大鎌を前に、両手で防御行動を取るユウ。
しかし、その鋭利な大鎌はユウの腕などまるで紙を切るように骨ごと切り裂くであろう。
ユウが歯を食いしばったその時、先ほど投擲したナイフが魔物の脇をかすめ、森の奥に消えた後、放物線状に軌道を返した。
あろうことか、勢いはそのまま絶死の蟷螂の胴体に突き刺さった。
ザシュッッッ!!!!!
ナイフはそのまま胴体に食い込み、激しい音を立てた。
魔物は自分の身に何が起こったのか分からぬまま、力を無くして倒れ込む。
ユウもまた、思わぬ事態に目を見開いた。そして、その手にナイフが返ってきた。
「す、すごい…!」
一度は外したはずのナイフ。
それが軌道を変えて、もう一度追尾するとは、人の成せる技では無かった。
魔物を討伐したのが自分の力だと知り、高揚感と安心感に浸るユウ。
右手を開いたり、閉じたりしながら、あの時の感触を思い出す。
「投擲って極めれば結構いけるんじゃない…?」
ユウの習得した『グレートスロー』は、対象に投擲を行った場合一定時間自動追尾するというものである。
使う際には相当な精神力を要するので、攻撃に集中する必要があることと、体への負担から連続して使用することができないという弱点があったが、それらを差し引いても強力なスキルであった。
ユウはしばらく、この強力かつ恐ろしい魔物を本当に倒したのかどうか、遠巻きに倒れている魔物の動向を注目した。
どうやら本当に動かないらしい。
そんなことをしているうちに、魔物から光の筋がユウのバッグに吸い込まれた。
戦闘の勝者であるユウにアイテムの所有権が移ったのだ。これでユウの本当に倒したのかという疑惑は確信に変わった。
絶死の大鎌 (B)
大蟷螂の翅 (B)
あ、アイテムじゃなくて、素材的な物もドロップするのね…とユウは心に留めながら入手したアイテムを手に取る。
先ほどまで狩られる側だったユウがその相手の素材を手にすることは、些かグロテスクなものを感じたが、きっと素材としては良いものに違いない、と腹に決めて持ち帰ることにした。
──────────
危険が去ったことで、再度キャンプ地の探索に当たるユウ。
左腕はまだ痛むが、街で購入したポーションを使用すると少しその痛みは和らいだ。時間が経てば治癒できそうだ。
探索スキルを使用し、目ぼしいアイテムを操刻の為にバッグに入れていく。すると気になるものに目がいった。
「ん、なんだろうこのメモ帳…」
古い羊皮紙のように見えるそれは、ところどころ劣化して文字が消え失せていたが、ユウは目を凝らして解読する。
ここで野営を行った冒険者の手記のようなものであった。
内容を要約するとこう書かれていた。
──私達はもう駄目かもしれない。
きちんと準備をして来れば違うかも知れないが、少し無理をし過ぎた。
夜になるとこの森は全く違う姿を見せる。
魔物による神経性の毒で仲間はもう生きているのか、死んでいるのか分からない。
せっかく遺跡の鍵を手にしたというのに、残念でたまらない。
鍵はキャンプの下に隠しておいた。せめてゴブリン達に奪われ、永遠に遺産が失われないように──
「遺跡に遺産…なんだか宝の匂いがプンプンするって、きっと盗賊なら言うんだろうけど…」
ユウはジョブとしては盗賊だが、まだ異世界のそれにはなりきれずにいた。
危ない橋なんて、渡らない。月給さえあれば細々とやっていくサラリーマン。
その気質が今でもまだ染み付いている。
しかし、目の前にチャンスがあるのに、それを無碍にするのもまた、癪に触る。
ユウの目は自然とキャンプ地の下に向いていた。
スキル『探索』を使用しながら丁寧に掘り続けると、錆びてはいるが重厚な鍵が見つかった。
きっとこれは、手記にあった遺跡の鍵に違いない。
ユウは一時それをアイテムボックスにしまい、キャンプ地を後にした。
戦闘と探索による疲労から、ユウは日が暮れゆく様子に不安になっていた。
またあの蟷螂みたいな化け物に出会っても勝てるという確信は無い。周囲に気を払いながら、目印を辿って街へ引き返すことにした。
街の門に着いたのはちょうど、日没の時間である。アイテムを整理するのはまた後日にし、『鹿の子亭』に帰ってきた。
女将の「おかえり」という笑顔に安心を覚える。
そばに付いているアカリが夕食の時間と種類を知らせてくれる。
探索の疲労から、ユウは食事に追加料金を払い質の高い物を注文した。
アカリが「毎度ありー!」と嬉しげな声を上げる。
食事の時間まで30分、一旦ユウは自室に戻り、今日の様子を日記に書き示した。
異世界にやってきてまだ二日目。全てが新しい事でいっぱいだ。整理しなくてはいけない情報が山ほどあった。
覚えている全てのことを記録しておいた。
食事の時間の5分前、食堂についた。5分前行動というのは社会人になってから、身に付いていた。
心配性なユウは、会社員時代はその更に10分前には全ての用意を仕上げて席に座っているタイプであったが。
食堂のシステムを見回して再確認していると、見覚えのある顔に再度、出会った。
その人は手を振りながら近付き、ユウの隣に座ったら、
「あれ?ユウじゃない?ここに泊まってたの?」
それは職場の睦月先輩に似た、この世界の住人、シズクであった。
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