17話 成長と私
手に取っていただき、ありがとうございます。
この土日で数話投稿する予定です。
少しの間お付き合いしていただけると嬉しいです。
古いキャンプ地に投棄されたアイテムを拾っているところへ、招かざる来客が現れた。
キャンプ跡地で身を隠して、手にナイフを握り、臨戦態勢を整えるユウ。
木の影から現れたのは、およそ成人男性ぐらいの大きさのカマキリであった。
絶死の蟷螂、人々からそう呼ばれている魔物だ。
モンスターとしての格は先日戦ったオークと同じランクに属するが、集団戦闘を得意とするオークのそれに対し、単体でその危険性をもつそのモンスターは、格上の冒険者であれど舐めて掛かると苦戦する、危険なモンスターである。
(気づかれずに、やり過ごせるといいが…)
絶死の蟷螂はゆっくりと辺りを歩きながら、その獰猛な目で辺りを探っている。
この森では驚異的な捕食者であり、生態系でも頂点に属する魔物である。
身動き一つせず、じっと危機が去るのを待っているユウであったが、気配を察したのかその目がキャンプの方へ向けられた。
逃げ足を使って一心不乱に逃げ出すか?
逃げるのは諦めて先手を繰り出すか?
何か有効なアイテムはないか?
このまま気付かずに去っていくのを神に頼むか?
ユウの頭の中で考え得る選択肢を叩き出していく。
それと同時に盗賊のユニークスキル『鷹の目』は瞬時に可能性を計算し、対象行動となる地点にリングを表示させる。
(有効なアイテムは無さそうだ…逃げるのも限りなく可能性は低い。それなら…!)
ユウは所持しているナイフを赤く表示されている箇所へ力強く放り投げた。
その刹那、それを見切って直撃を躱す魔物。一連の動きはよく訓練された武術家のようであった。
捕食側のモンスターが先手を打たれ、そのプライドに傷が付いたのかユウの元に獰猛な殺意が向けられる。
翅を大きく広げ、鎌を高く振り上げている。完全なる威嚇のポーズだ。
ユウはこの魔物にとって、敵と認められた。
(くそっ…!もっと良いスキルがあれば!)
この魔物は素早く、戦闘能力も高い。
やはりその獲物である鎌による攻撃が驚異なのか、至近距離には近づくな、というのが魔物の至近距離にある『鷹の目』で表示されている灰色のリングでわかる。
あの発達した前脚と顎に襲われれば一溜りも無いだろう。
一方でユウは投擲のスキルを除けば、それは一般人と同じものであった。
盗賊による補正で素早さと器用さの上昇はあるが、体力や腕力についてはごく少ししか補正されていなかった。
睨み合いが続く両者。
絶死の蟷螂はその距離を測るように、左右に揺らめいている。
ユウも次のナイフを手に取って、低い姿勢のまま相手の出方を窺っている。
時間だけが通り過ぎていく。
木の上から鳥が危険を察したのか、木の葉を揺らし、甲高い声を上げて飛び去った。
その鳴き声がきっかけになり、魔物はその大鎌を振りかざし、目にも止まらぬ速さでユウに飛び込んだ。
「ぐ、ぐぅ…!!」
こうなることを読んで逃げ道を『鷹の目』で演算していたが、一歩遅れた。
直撃は免れたが、その鎌はユウの左腕を切り裂いた。
服の下から血が滲み出してくる。
その隙を見逃さず、魔物は猛攻を続けた。
一点集中が駄目なら、範囲攻撃をと、その鎌を大きく広げて迫りくる。
ユウはバックステップの要領で距離を取り、高い木の側に身を寄せた。
ユウとしては木を利用することで範囲攻撃を防ごうとしたねらいがあったが、障害物ができたことで、投擲のチャンスも絞られる反面があった。
攻撃を諦めて防御に徹する策は、この素早く、一点に狙いを定めてくる魔物には効果が無かった。
狩るか、狩られるか、の間に交されるのは攻撃の応酬のみ。攻撃を捨てて防御に転じるのは愚策である。
執拗に、当たれば即死級の攻撃を振るう魔物と、それを寸前で避けるユウ。
その殺し合いのやり取りは何度も繰り返された。
完全に、狩る側と狩られる側に分かれている。
引き分けという択は無く、殺るか殺られるか、その世界に両者は引き込まれていた。
ユウは頭の中で効果的な攻撃は無いかと再度演算を繰り返す。そして、そのタイミングを待った。
左腕の出血は止まったが、痛みは治らない。
先ほど街で準備しておいたポーションを使用している暇なんてどこにもなかった。
一体、ゲームの世界ではどうやって戦闘中に薬草を使用しているんだ?と場にそぐわない考えが頭に浮かんだ。
再度距離を詰めながら振り下ろされる鎌をいなしながら、ユウはその時が来た、とナイフを投擲する。
ザシュッッッ!!!
ナイフが魔物の後ろ脚にクリティカルヒットした。
胴体に対する攻撃は警戒され、避けられやすいことから、攻撃の際の着地に踏み止まる後ろ脚を狙った。
致命傷とまではいかなかったが、魔物のスピードは格段に落ちた。
しかし、手負いとなったことで更に獰猛さが増し、威嚇の様子にも怒りが露わとなっている。
その時、ユウは右手に不思議な感覚を感じた。
投擲を繰り返してきたからか、強敵に対するクリティカルヒットが引き金となったのか、その時ユウの投擲スキルは成長し、『投擲Ⅱ』となっていた。
それに伴い、解放されるスキル、より強力な投擲『グレートスロー』。
ユウは右手の不思議な感覚を頼りに、集中力を研ぎ澄ませて、今度こそ致命傷をと、胴体に狙いを定める。
完全に未知の感覚。『鷹の目』で表示されるリングは今まで見た事のない橙色を示し、ユウにとってその効力は未知数だったが、このタイミングを逃すまいと投擲を放った。
後脚に傷を負っているが、その身体捌きは変わらず、またも緩やかにその投擲を回避する魔物。
今度はこちらの番とばかりに大鎌を振り上げて突進してくる。
攻撃に集中力を割いていたせいか、ユウの回避は一歩遅れた。
「ここまでか…っ?!」
ユウは咄嗟に防御の構えを取った。
しかし、その大鎌の前ではそんな防御は無意味に等しかった。
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