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16話 喧騒と私

手に取っていただき、ありがとうございます。

少しの間、お付き合いしていただければ嬉しいです。

「睦月…先輩…?」




二度とこんな店来るか!と叫びながら武器屋から飛び出してきた女を見て、ユウは思わず呟いた。

ショートカットの栗色の髪に、整った顔立ち。きりりとした眉目。

現実世界でユウを毎週居酒屋に呼び出していた職場の先輩に瓜二つである。


来ている服はもちろんこの世界のものだが、ユウはここまで似ている人はいるものかと驚いた。

もっとも、それを目にしていたのは生前の世界だったが。


睦月に似た女を見て立ちすくむユウにその女は気が付き、怪訝な顔をして近付いてくる。


「何ぼーっと見てるのよ?」


「いや、何でもないっす。知り合いに似てたもので…」




突然声を掛けられたことに驚くユウ。目を泳がせ、直視出来ずにいる。

というのも、その女は肌の大部分を露出した装備をしていたので、目のやり場が無かった。




「あんたもあの店の商品は買わない方がいいよ!すぐ壊れるからね!」


「そ、そうなんすね。」


「それよりあんた、見た感じ新人?」


「自分でも良く分からないんですが、そのようなもんかと…。」




ぐいぐい来るこの手のタイプ、ユウはあまり得意ではなかった。

先ほどの質屋のように前もって準備できることには対処できるのだが、如何せん相手のペースに持ち込まれてしまう。

ユウの悪い癖であった。奇しくも、生前この女に似た睦月にも沢山指摘されていたそれである。


「私はシズクって言うんだ!何か困ったことがあったらいつでも聞いてね!しばらくはチグノーで世話になるつもりだからね!」


シズク、と名乗った女はユウの背中をバンバンと叩いて言う。ユウにとって困ったこと、というのは正に今だったが、自己紹介だけをしてその場を去ることができた。




(えらい目にあった…。性格まで睦月先輩そっくりだ)



顔立ちは美人なので、あの気の強い性格が無ければ言うことなしなのだが。

見知った顔に出会えた安心感と異世界でそれに出会う感覚にユウの心持ちは複雑だった。



この出会いがユウの行く末を大きく変えることを、ユウは知る由も無い。



──────────



シズクと別れた後、ユウは防具店に来て装備を整えていた。

瞬時に的確な回避や防御の取れる、盗賊のユニークスキル『鷹の目』があるといえど、昨日のオークのような敵に襲われた際に今の装備では心許ない。


さすがに一式装備となれば値が張ったので手が出なかったが、急所を避けるだけの装備は整えることが出来た。


先ほど質屋で買い取って貰ったコインはほとんど底をついてしまったが、体が資本なので問題ない。

資金を貯めるアテは付いた。今からまた稼げば良いのだ。



盗賊という職業と、回避に専念したい為出来るだけ軽装でというユウの希望に対し、店の主人は魔物の素材を使った胸当てを提案した。

 

Cランクの魔物の素材を使っているらしく、耐性があるということで街の近辺で冒険をする分には問題無いということと説明を受け、ユウはそれと追加で手頃な装備を買い取った。




今までとは明らかに違う、見た目だけで見ればいっぱしの冒険者のそれであった。


店主の提案はユウの要望にあっていたのか、体に吸い付くように馴染み、今まで以上に動くことが出来そうな身軽さだ。




もう少し金が貯まったら、ランクの高い防具に手を出そう。と、ユウは高価な防具にも目を通しておいた。

武器よりも身を守る装備を優先させるあたりが、ユウの心配性を発揮させていると言える。




防具の他にポーションや携帯食料、飲料水などを補給して、ユウは街を出た。



──────────



ユウは再度、森に来ていた。


その目的は資金稼ぎの為のアイテム調達と、植物や木の実の採取である。

オークを苦しめたクモンダケのようなアイテムがこの森には豊富にあり、現代世界とは全く異なる生態系を作っていた。



街の情報によると、夜以外はさほど強力な魔物も現れないようだが、細心の注意を払ってユウは森をかき分けて進んでいく。




(やはり少し奥まで行かないと、それらしいアイテムは無さそうだな。)



スキル『探索』を使って周囲のアイテムを探る。

気配がすると視界にぼうっとアイテムが光る。便利なスキルだ。



道中、どんぐりのような物を拾った。


「これ、操刻で時間を早めたらどうなるんだろ?」


コンパスでどうなるか試してみたが、どんぐりは割れて枯れてしまっていた。


土が足りないのか、と思い試してみたが、土を足しても同じだった。



これでもか、とポーションの瓶を植木鉢代わりにして、水分を少し足し、コンパスをかざして操刻を行った。



「うお、芽が出てきた!」



どういう仕組みなのか分からないが、生き物を成長させる、という操刻術にはどうやら条件があるらしい。

もっとも、生体ランクが低い物に限定されるので、植物以外にはそもそも使用ができないが、大きな収穫であった。

花屋さんでは一生暮らして行けそうな貴重なスキルである。


もっともユウは花屋になる気は無いので、違う使い道を考えていた。




キノコや木の実の類を適当に採集しつつ、帰り道の為の目印を付けて森を進んで行く。




「この次に来る時は薬草や素材の情報も頭に入れとかないとな…。」



手当たり次第持ち帰るには、いくらアイテムボックスがあるとはいえ無理があったし、そもそもの価値が分からない。


『探索』で出来るだけ価値が高そうな物を選んではいるが、効果が分からなくては意味が無かった。

そう考えていると、目の前にお目当の物が現れた。



「あった!キャンプ地だ!」



古いテントの骨組みに、焚き火の後。雑に捨てられている食料のゴミや瓶。

ここで人間が過ごしたことは間違いなかった。

しかし、前に見たキャンプ地とは明らかな違いがあった。



「ここで、戦闘があったのか…?」



やや破損の激しい武具や防具の類が多く見られた。

古い血痕と思しきものや、倒木の様子からユウは想像した。


その時、ガサガサッと草を揺らす音が聞こえ、ユウはすぐに臨戦態勢を取る。


見たこともない魔物が、そこから現れた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

次回、バトル回です。

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