14話 商店と私
拙作をお取りいただき、ありがとうございます。
今回も少しの間、お付き合いいただけると嬉しいです。
女将に促されて、宿屋の食堂に来た。
宿屋『鹿の子』、モチーフとなっている鹿の親子があちこちに描かれている。
ユウが元々住んでいた世界では、鹿は神の使いとして縁起物として扱われていた。この世界でも似たようなものなのか、と着席して眺める。
起きた時間が遅かったからか、宿泊客はそこそこいたようだが食堂にいるのはユウ一人だった。
知らない場所で話しかけられる事が苦手なユウにとっては好都合と言える。
しばらくすると、手にトレイを載せた幼女がこちらに向かって歩いてきた。
年は5〜6歳ぐらいか。その歳ならではの、大きな目にぷっくりとした頬っぺ。髪を二つに結った姿が可愛らしい。
「お客さん、寝坊ですかぁ?」
幼女はユウの前に食事を置き、話しかける。
どうやら、この宿屋の従業員のようだ。いや、女将の娘と考えるのが自然だろう。
「ありがとう。久しぶりのベッドでぐっすり眠ってたよ。」
「片付けの時間があるので早く起きて欲しいですぅ。」
「あ、そっか…。ごめんね。」
「いえいえ、ぼうけんしゃさんのご面倒を見るのも、アカリの仕事ですから。」
「アカリちゃんって言うんだ。俺はユウ。よろしくね。」
転生前はアラームが無いと起きられない生活をしていたので無理はない。
ユウは心配性な性格から何重にもアラームを掛けないと心配でしょうがなかった。
久しぶりに思いきり寝たと感じられる睡眠。
可愛い従業員に迷惑をかけまいと、出された朝食を食べた。
砕けた様々な種類のナッツが沢山乗ったバタートースト、目玉焼き、新鮮な果物が1つのプレートに乗っていた。
「なにこれ……超絶美味いんだけど」
自堕落な食生活を送っていたユウにとっては久しぶりのちゃんとした朝ごはんであった。
女将が昨夜、料理も美味しいと言っていたのが頷ける。
「うちは料理にこだわってるんで。ご飯だけ食べに来るお客さんもいるんですよ!」
幼女が自慢気にユウに言った。ユウは何度もその幼女に食事の感想をつたえ、異世界に来て初めての朝食を終えた。
──────────
「帰りは何時ごろになるんだい?今晩も泊まるんだろう?」
「ありがとうございます。日没までには帰りたいと思います。」
「昨日と同じ部屋をとっておくよ。気を付けていっておいで。」
「わかりました。行ってきます!」
女将に優しく微笑みかけられながら、ユウは宿を出た。
あの女将に育てられたら、きっとあの女の子も将来はしっかり者になるだろう。
初めての街、どんな店や生活があるんだろう、とユウはワクワクしながら街に繰り出した。
商店の立ち並ぶエリアは、チグノーと呼ばれているこの街でもやはり繁盛区であった。
街道沿いの門から直線上に立ち並ぶだけあって、旅人や商人の類にもアクセスが良いのだろう。
見た感じ昔からやってそうなどっしりとした老舗から、入れ替わりの激しそうな飲食店、露店に至るまで沢山の店が立ち並ぶ。
価格も様々で、同じ商品でも品質や大きさなどで値段が倍ほど違うものもある。
ユウはこの世界の金銭感覚が無いので、様々な種類の商品や店を見て、大体の相場を見極める必要があった。
まずは武器屋に入った。
正直なところ、操刻で新品に戻した使えそうな武器がいくつかあったので急ぎで必要なものではない。
そもそも、ユウの主戦術は投擲なので重そうな武器はかえって邪魔そうである。
「いらっしゃい!兄ちゃん、軽装をお求めかい?」
「いや、どんな商品があるのか、色々見ておきたくて…」
「そうかい!気になる商品があったら言ってくれよな!」
髪を短く刈ったエプロン姿の体格のいい主人が出迎える。
ユウの見た目から、戦士より斥候や探索者といった職業だと思っての声掛けだった。
ユウが入った武器屋は品揃えが良い店舗で重装から遠距離に至るまで、様々な武具が並んでいる。
一つの武具に特化した専門店よりも、物価の相場が分かりやすいだろう、と様々な店を外側から眺めた末に思った決断だった。
ユウは財布の中身を確認する。
と、いっても昨日従者から渡された金貨1枚しか手持ちに無かった。
それから宿代である銀貨4枚を差し引いた額がユウの全財産である。
通常の銀貨と装飾が異なり、一回り大きな銀貨が9枚と通常の銀貨が6枚。
イマイチその価値についてはピンと来なかったが、およそ25泊分の謝礼を従者から貰ったと思うと、結構な額の謝礼をいただいた。令嬢や従者の命を救ったのでそれでも少ないぐらいだが。
収入源が無いユウにとっては何としても無駄違いは避けたかった。
しかし、所持金についてユウには1つの算段があった。
商店街を行き来しつつ、それと思しき店は頭に入れておく事にした。
まずは装備や生活の為の資産を確保すること。
その次にこの世界や、リーナと約束した邪蛇についての情報を集めること。
それらが当面の課題として浮き彫りになった。
前者についてはアテがあったが、後者については全くの手探りだ。
いきなり街の人にこの世界の説明をしてくれ、と頼んだところで何から話せば良いか分からないだろうし、完全なる不審者扱いをされるのが目に見えている。
つまり自分の足で稼ぐしか無い。
この世界の人間と親密になり、酒場なりギルドなりで情報を集める。
これが遠回りなようで一番の近道だと考えた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
少し更新ペースを変更しようかと考え中です。
週の更新速度は変えず、平日を少なめ、土日に集中して更新しようかと思ってます。
次回は新しいキャラクターが登場する予定です。




