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11話 指輪と私

数ある小説から拙作を手に取っていただき、ありがとうございます。


前話のオークとの戦い、その後の話です。

今回も少しの間、お付き合いいただけると嬉しいです。

オークはユウの持つ武器を弾き飛ばし、粗暴な槍を力任せに振りかぶった。




一刻のち、迸る鮮血。




夥しい程の血に染まるユウの体。



ユウが胸を見ると、その胸にはオークによって無残にも開けられた風穴が────無かった。



「グオオォォォォ!!!」



大声で唸るオーク。


両の手が力を無くし、ガクッと垂れた後に絶命する。

その胸には、分厚い背中を貫いた鋭利な剣が突き刺さっていた。


オークの背中越しに、先ほどの少女を守っていた従者が真剣な眼差しを覗かせた。



「遅くなって、すまなかったな。危ないところだった。」


「あ、あぁ。助かった…。」



従者は耳元まで剣を振り上げた後、下に向けて剣を叩きつける動作をする。

剣は風を斬り、付いていたオークの血が破線状に地面を濡らした。



「先ほどは助太刀、感謝する。街の近くゆえ、護衛の数を減らしていたが、まさかこれだけの数のオークに出くわすとは想定外だった。」



従者は兜を取り、片膝をついてユウに礼を述べた。

垂れた長い金髪の横から、美しい碧い目と、整った顔が見えた。

ユウは従者の礼を手で制し、こちらこそ命を救ってもらったと逆に礼を述べる。




「しかし、このオークの群れを一人で討伐するとは、恐れ入った。」



従者が口角を上げたのをユウは見逃さなかった。

その様子を見て、よく教育された信頼に足る人物だろうと感じ取っていた。



「我が君、伯爵令嬢も、そなたに礼を述べたいとおっしゃっている。街道まで来てくれないか?」


「ああ。礼を言われる程のことではないが、こちらも無事を確認したい。」



ユウは何かの可能性を予期し、令嬢の下へ向かった。



────────────



「先程は、あの、ありがとうございました。私はこの領地を治める伯爵の娘、リーナと申します。」


「いえいえ、お怪我が無くて何よりです。」


可憐な少女は恥ずかしそうに目を俯かせながら、ユウに向かって伝えた。




「あなたが通りすがるのが見えて、私をお救いくださるのはこの人だって、思ったんです。まさか、こんなに強い人だったなんて。」




従者からほとんどのオークを一人で倒したと聞いて、リーナは驚いた。物語に出ていた、英雄のようだ。きっと私を窮地から救ってくださる騎士に違いない、と。

キラキラに輝くその目でユウに伝えた。



「良ければ、お名前とご職業を教えていただけませんか?」



先ほどの従者と同じく、金色の髪。リーナと名乗った少女のそれは、より白に近い透き通った髪。

長く、ゆるく巻いた髪を揺らせて、少女は少し恥ずかしげに尋ねた。

この人はきっと、物語に出てくる剣士や戦士に違いない。あのオークを一人でやっつけたんだもの。

リーナの妄想は膨らむ。

胸をときめかせて、ユウの返答を待った。



「ユウです。職業は……」




ユウは言葉を詰まらせた。

自分は盗賊だ。自ら選んだものでは無いが、成り行きでそうなってしまった。


嘘を吐くことも考えた。しかし、目の前の可憐な少女の目を見ると、その嘘はすぐに見通されそうな、そんな気がした。


何よりユウは嘘を吐くことで歪みが出ることを嫌った。嘘を吐けば今後も嘘を重ねることになる。その覚悟を出来ずにいた。




「……盗賊です。」




気がつくと、正直にそう伝えていた。


胸を張って伝えれば良かったのだが、頭の中にあるDランクの称号。


どこか後ろめたい気がして、リーナの目も見ずにありのまま伝えた。

心のどこかに、この少女がそれを受け入れてくれることを願って。




「は?」



少女は困惑していた。

え、盗賊ってあの………?

人々から簒奪や略奪を繰り返す、ならず者の集団。


彼女が読んでいる貴族の本には、そう書いてあった。


そして、決して盗賊には関わるな、決して信頼するな、とも書き加えられていた。

そして少女にはもう一つ盗賊を忌み嫌う理由があるが、それは少女のみが知る思い出だ。



「盗賊だ。しかし、盗みや殺しはしていない。成り行きでこうなって──」


「もう、結構ですわ。助けていただいたことには感謝申し上げます。ですが、私の前にもう現れないでくださいませ。」



リーナは踵を返し、馬車の方へ戻っていく。


腹立たしかった。英雄だと喜んだ自分が恥ずかしい。


ユウのもつ何かに期待していたのかもしれない。運命の人だと思っていたのかもしれない。それが、盗賊なんて。その落差は大きかった。


リーナは芽生えかけた恋心に、ボロ雑巾を何枚も掛けて蓋をするように、それを見ないことにした。




これは、初めからボロ雑巾だったんだ。




冷静になれば、盗賊といえども命を救ってもらった恩人に変わりないと気付くのだろうが、その考えに行き着くにはまだ、幼すぎた。




「おい、待てよ!俺はそんなんじゃないって!」



あまりの態度の変わりようにユウは立ち上がって、リーナを止めようとした。


命懸けで、守ろうと思ったのに。

話ぐらい聞いてくれてもいいじゃないか。


そんな悲痛な思いをよそに、リーナは先ほどとは違う明らかな冷たい目でユウを睨みつけてこう言い捨てた。



「あら、盗賊らしく報酬をせがんでいるのかしら?なら、受け取りなさい。」



リーナはその手から指輪を抜き取って、ユウに投げつけた。


「…なっ!」


ユウは知らずのうちに手の甲でそれを弾いていた。


「リーナ様、その指輪は!」


従者の声を無視し、ユウは啖呵を切った。


「いらねぇよ!こんなもん!」


ユウにも意地があった。それを受け取れば、自身を盗賊として認めたことになる。

どんな高級そうな指輪だろうと、大金を積まれようと、相手の誠意が無ければそれは無価値に等しい。



ころころと転がる指輪を睨みつけて、リーナの怒りは加熱した。

この指輪は、特別なものだった。



「命を救って貰った礼よ!あなたには十分過ぎる代物だわ!受け取りなさい!」


「いらねぇっつってんだろ!俺はこんな物が欲しくて、あんたを救ったんじゃない!」


「では、何がご希望かしら?お金?食事?装備かしら?」




従者はその主人である、リーナとユウとのやりとりにあたふたしている。

ただの失礼な盗賊なら、無礼な態度を処罰する名目になるのだが、命の恩人となれば話は違う。



「俺は褒美の為にやったんじゃない!ただの人助けだと思ってしただけだ。」



リーナは驚いた。

盗賊の口から人助けなんて言葉が出るなんて。

そんな事はリーナの読んだどの本にも書かれていなかった。


もしかすると、盗賊となったには理由があって、本当の救世主なのでは、という一説も芽生えた。

だが、頭の隅から離れない、盗賊を信頼するな、の文字。



「分かったわ。あなたの話を聞いてあげてもいい。でもそれには一つ、条件がある。」



リーナはユウを見下したように微笑み、前屈みになって人差し指を顔の前に立てた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

次回はこの世界で初めて街にやってきた様子を描きたいと思います。


自分の好きなように書いておりますが、評価をしてくださる皆様には本当に感謝しております。


また、短編ももう少しで完成します。

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