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10話 作戦と私

一斉に向かってくるオークに対し、ユウは蜘蛛の子を散らすように、逃げた。


スマートな戦術的撤退ではなく、完全に敵を背に向けた全力ダッシュだ。

あの少女の手前、無様な姿は見せられないと思っていたが、背に腹は変えられない。




逃げ足スキルを駆使して、『鷹の目』で表示された青色のリングの場所へひたすら逃げる。

どうやら、赤色のリングが攻撃に関する予測で、青色のリングが防御や逃亡といった行動に関する予測らしい。もっともその使い手であるユウには今それに気付く余裕などないのだが。




「あのお方は…?」




取り残された少女がその背中を見送る。

少女はとりあえずの危機を脱していた。従者が周りを警戒しながら声をかける。




「リーナ様!!!申し訳ないありません!我々がついていながら…」


「お怪我はありませんか、リーナ様!」


「負傷した者の治療をすぐに始めろ!」




従者達が態勢を立て直そうと、忙しなく動く中、リーナと呼ばれた少女は一喝の声をあげる。


「わたくしのことは大丈夫です!早くあの者の救助へ!」




______________





ユウはまだ走っていた。茂みに身を隠そうかとも思ったが、『鷹の目』のリングが限りなく薄く表示されたのでやめておいた。恐らくすぐに見つかって袋叩きに遭うのが関の山だ。


青色のリングを追って、自分でもどこまで行くのか分からぬまま、逃亡を続けた。安全な地へ行くのが先か、それとも自分の足に限界が来るのか先か。



街道から逸れて、林のような場所に付いた。狭い木々の間を抜けていくと、円形の空き地があり、周りを囲むように少し背の高い木々が生えている。


完全なる袋小路だったが、青いリングはもう表示されていない。

身を隠すような物もなく、こんな場所で戦闘になれば、強力なスキルを持たないユウは一溜りもない。


オークはユウの匂いを追っているのか、足音はこちらに近付いてきていた。




『鷹の目』は闇雲に、逃走のための青いリングを表示させていたわけではなかった。


ユウの考える一つの賭けに対して、有効な場所への道案内もまた、果たしていた。


その終着地である、この地が作戦の実行の為の最善の地であるということである。



(通用…するのか?)



ユウはその思いを胸に、再度『鷹の目』を使用する。

アイテムボックスに赤いリングが表示される。



オーク達は思っていたよりも早くユウに追いついた。鼻を鳴らし、明らかな敵意をこちらに向けている。

遅れて来た者も到着し、陣形を整えた。

こいつは格下だ。仲間を葬ったあの一撃もまぐれに違いない。知能は低いなりにこう感じ取っていた。


じわじわとユウとの距離を詰めるオークの群れ。扇状に隊列を無し、逃げ場はないぞ、と言わんばかりであった。

ユウはこの数を相手に全てクリティカルヒットの投擲を繰り返す程の技術は無い。一度でもミスれば、即座にオークによる連携に飲まれてしまうであろう。



半歩、また半歩とオークが迫る。

その時、『鷹の目』で表示されたユウのアイテムボックスが強烈に赤い輪を灯す。

その時がきた。反撃の狼煙を上げる時だ。




「これでも喰らえぇぇぇぇ!」



ユウは全力で投擲した。

ナイフや、石ころでは無く、アイテムボックスから取り出したポーションの瓶を投げていた。先ほど、破棄されたキャンプ場から頂戴した物だ。

しかし中身はポーションではない。同じく先ほどの森で操刻のスキルで腐敗させた、毒キノコが入っていた。

ユウは空中に放り上げたその毒入り瓶に向かって石ころを投擲する。

ガラスの破片と共に物凄い臭気と毒素が撒き散らされた。




効き目はすぐに現れた。毒そのものではなく、強烈なる臭気である。


目眩を起こし、次々と倒れ込むオークの群れ。倒れ込んだ先には毒素が広がっている。

鼻がきくオークにはこれ以上ない苦痛であった。


偶然か狙ってのことか分からないが、ユウの採集していたキノコはクモンダケ(B)というもので、平常時は見た目通り普通のキノコだが、腐敗が進むとものすごい匂いと猛毒を発するキノコだった。

上級の毒魔法にも匹敵するその効果は、強烈なる臭気を伴い、守る術をもたないオークに突き刺さった。


倒れ込んだオークを狙い、ナイフを投擲していく。

一体、また一体と、クリティカルヒットを繰り返した。



「すごい効き目だな!」



ユウは作戦が上手く行ったことに笑みを溢した。

最後の一体に向けて、ナイフを投擲すると、安堵感が沸いた。

尻餅を付いて、座り込む。倒したオークから、ゴブリンとの戦闘と同じように、光の筋がユウの腰元に吸い込まれる。




オークスピア(C) ×3

魔石 x1




「なんだ?この魔石ってのは。」



アイテムボックスに手を掛けて呟く。

薄暗い青色の水晶のような鉱石がその手にあった。

魔石に注意を向けていると、先ほどの小径から遅れてきたオークがやってきた。



「ま、まだいたのか?!」



ユウは臨戦態勢に入る。

もう毒入りの瓶は無かった。緊張感が走る。

こうなれば、もう完全なるタイマンである。


オークは仲間の亡骸を見て怒りに猛った。

猪突猛進とはこのこと、とばかりにユウの元へ突撃する。オークの手にした槍の攻撃力を最大限に発揮する突進である。

ユウは手にしたばかりのオークスピアでそれを払い除け、柄と柄での力比べが始まる。




「な、なんちゅう力だ…!!!」



オークの単純な腕力に翻弄されるユウ。

全身全霊で受け止めるが、じりじりと押し倒され、もう穂先が眼前に迫っていた。

こんな状況でも、ユウは様々な事態を想定したが、『鷹の目』の表示したリングはどれも灰色である。

ユウの想定した未来が実現する可能性は、限りなく0に近いということになる。

その時、オークが力を込めて、ユウのオークスピアを弾き飛ばした。


くるくると宙を舞うオークスピア。

そして、オークはユウに向けて自身の持つその槍を大振りに振りかぶった。




次の瞬間、ユウの体は、夥しい量の血液で真紅に染まっていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

次回──ユウ、死す。

となるかどうかはお楽しみに。

評価やブクマ本当にありがとうございます!

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