1話 スマホとトラックと私
数ある作品から、本作をお取りいただきありがとうございます!
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時田優はありふれたサラリーマンだった。
大学を卒業して5年、休みなく働いてきて少しずつ仕事も板につき、任されることが増えることを喜びつつも日々増える仕事に辟易としていた。
彼女もおらず、遊び友達も少ない彼にとって仕事と家の往復ばかりで、生きる気力を失いかけていた。
楽しみなのは、毎週末に割と美人な先輩から飲みに誘われることと、ゲームぐらいであった。
「今日が終われば3連休か…今回も溜まった家事とゲームで何事もなく終わるんだろうな…」
朝から垂れ流している情報番組を見て彼はそう思う。テレビでは目まぐるしく、行楽シーズンにおすすめな観光地や家族での過ごし方などを紹介している。
コーヒーと菓子パンを喉の奥に押し込み、彼は仕事着に袖を通す。いつものことだ。目を瞑っていてもできる。優柔不断な性格の彼は細かいことで悩むことを嫌い、必要最低限のものしか用意せず、日々のルーティーンも決まっている。しかし、今日は少し何かが違った。
「いってきます!」
誰も居ない一人暮らしの部屋に向かってそう言うのは、少し寂しい気がしたが、これは子どもの時からの癖であるので仕方ない。
いってらっしゃい、という声が帰ってこない生活にももう慣れた。
いつものように電車に揺られ、いつものようにオフィス街を歩く。これから始まる仕事のことは頭の片隅にはあったが、手にしている端末で趣味のゲームに勤しんでいると通勤時間の苦痛さを忘れることができる。
「お!今日からフェス開始じゃん!やっぱ連休前はイベントが多いな」
「こっちは朝からメンテかよ、10時終了予定って…始業時間考えろよ運営…」
手にした端末でいくつものゲームを閉じては広げをしている彼は職場に向かう3つ目の横断歩道に差し掛かった。
相変わらず手にはスマホ、もう少しで職場にたどり着くこともあり、最後にしようと決めていたゲームのログインボーナスの画面を見ている時、嫌な男がした。物凄い衝撃音、一瞬で血の気が引く。
乗用車にぶつかり、急激に進行方向を曲げる大型トラック。
トラックの運転手は居眠りから覚醒し、猛烈にブレーキを掛けるが、青信号でスマホを片手に歩いているサラリーマンに吸い付くように突進した。
それはまるで、殺意をもって飛び込む猛獣のようだった。
次の瞬間、彼は宙を舞っていた。突然のことからか、痛みは無かった。抵抗のしようがない激しい衝撃。彼の四肢はあらぬ方向に曲がり、頭の重さが重力に引かれ着地する。ゴツン、という鈍い音がしてそれで彼は完全に意識を失った。
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