お~の~〈おっさんは基本、話を聞いてない〉
昔々あるところに、青年が住んでいました。彼は毎日、愛用の鉄の斧をもって山に出かけ、木をバッサバッサと伐り、森林伐採に勤しんでいました。
その日もいつものように森林伐採をしていると、汗で手が滑り斧が木の間を滑り落ちていってしまいました。
慌てて追いかけ、木の根に引っ掛かっている斧に飛び付きました。しかし、慌てすぎたのか、青年の手が当たった斧は、弧を描きながら空を飛び、池にドボンという音と共に沈んでいきました。
「なんということだ。あの斧がなければ、履歴書の『趣味特技』欄に『森林伐採』と書けないじゃないか。」
青年は、池ノ前で崩れ落ちました。すると、水面に泡がたち、池の中からフワフワの白い服を着たおっさんが現れました。
「これ、お前。どうしたんじゃ。」
「あの、斧を落としてしまって」
青年が答えるとおっさんは、ちょっと待っていろと言うと池の中に帰っていきました。
待つこと、5分。
「お前が落としたのは、この金の斧か?」
池からでてきたおっさんが聞きました。
「いえ、違います。あの」
青年が首を振るのをみると、すぐにまた池の中に帰っていきました。
また、待つこと5分。
「では、お前が落としたのは、この銀の斧か?」
おっさんは、今度は銀の斧を手にして聞きます。
「いえ、違います。だから、その」
青年が話をしようとしましたが、おっさんは、首を振るのをみると、話を聞かず、池の中に帰っていきました。
そして、待つこと10分。
今度は、おっさんは何も持っていません。
「青年よ。悪いが他の斧が見当たらんのだか。」
青年は、答えます。
「だから、おっさんの頭に刺さっているのが、僕の斧だってば!!」