第5話[鬼頭達也という男]
蛇乃の視線の先に鬼頭達也が立っていた。
達也に挨拶する恭子を殴り蛇乃は達也に言う。
「お兄さんが帰っていたなんて本当に最悪、いえ運が悪い、コホン、喜ばしい事ですわ。」
わざと言い間違えたり咳払いをしながらも悪態をつく蛇乃。
達也は苦笑いをしていた。
「いや、完全に喜んでいないでしょ。別にいいけど、それより君が恭子ちゃんかい?達子ちゃんから話しは聞いてるよ。いつも達子ちゃんと仲良くしてくれてありがとう。」
そう言って達也は達子の頭を撫でる。
蛇乃から聞いていた話しと違い戸惑う恭子。
そんな恭子をよそに蛇乃は達也の手首を掴む。
「汚い手で達子を触るのやめてくれませんか?それに達子も高校生なんだから、ちゃんと断らないと。いい加減、兄離れしないと恥ずかしいぞ。」
可愛く言ってはいるが蛇乃の目は笑っていない。
そんな蛇乃に反論する達也。
「別に兄妹が仲良しなのはいい事だろう。家族は助け合わないと、それに蛇乃ちゃんこそ、両親をパパママ呼びしてるじゃないか。」
そう言って達子に後ろから抱きつき蛇乃を挑発する。
怒りを露わにする蛇乃。
「あれは、ああ呼ばないと泣くから。つか、あんただって知ってるでしょ。」
達也を睨みつける蛇乃。
達也は全く動じず蛇乃に言う。
「だから?本当に嫌なら両親に子離れするよう努力するのも娘の役目なんじゃないかな?それをしないって事は蛇乃ちゃん自身、親離れできてないんじゃない?」
何も言い返さない蛇乃。
下を向き、ポタポタと涙が落ちていく。
恭子が得意の嘘泣きかと思う中、蛇乃は何やらブツブツと呟いていた。
「す。こ…。こ…す。ころすコロス殺すころすー。」
わあーっと泣きながら繰り返し連呼する蛇乃。
達子は達也から離れ蛇乃を抱きしめ頭を撫でる。
「よしよし。大丈夫だから泣かないで。大丈夫だから。ねっ。」
そう達子がなだめるも蛇乃は泣き止む事も無く達子をギュッと抱きしめ達子の胸に顔を埋め泣き叫んでいた。
いつもみたいに達子の胸目当てに泣いているのと違い戸惑う恭子。
何だかお母さんの胸で泣く子供の様だ。
「嫌い、あいつ大っ嫌いー。」
そう達子に泣きながら言う蛇乃。
達子は蛇乃の頭を撫でながら兄達也を睨む。
「ごめんごめん。言い過ぎちゃったね。反省してるよ。」
達子はもうっと言い、ゆっくりと立ち上がり蛇乃を抱きしめながら自分の部屋へ向かった。
恭子は蛇乃が落としたアイスの袋を拾い達子の後を追った。
達子の部屋に着いても泣き止まない蛇乃。
どうしていいか分からず立ち尽くす恭子に達子は座ったらと声をかけた。
「う、うん。」
恭子はそう言うと座る。
どう慰めればいいのか分からない。
「えっと、蛇乃は良い奴だし可愛いし強いし…。アイス食べる?蛇乃が買ってきた奴だけど…。」
頑張ってみたけど上手くいかないと心の中で叫ぶ恭子。
蛇乃は鼻をシュンシュン言わせ、達子から離れアイスを一つ取り出した。
「せっかく買ったから食べよ。溶けたら勿体ないし。」
涙声で言う蛇乃に二人はアイスを一つずつ取って食べはじめた。
美味しいと二人が言う中、蛇乃は顔を上げずゆっくりとアイスを食べる。
元気が無い。
こんな蛇乃、初めて見た。
どうやって慰めればいいのよ。
焦る恭子。
そんな中、達子が言う。
「お兄ちゃんは親離れできていないって言ってたけど、私は違うと思うな。蛇乃は優しいから両親を傷つけたく無いんだよね。だからパパやママって言ったり、お弁当を毎日頑張って食べたり、気を遣ったり。」
達子は蛇乃の頭を撫でながら続ける。
「恭子ちゃんの時だってそう、恭子ちゃんが退学させられそうになった時、頑張ってくれた。私…。そんな優しい蛇乃が…。」
少し顔を上げる蛇乃。
達子は頭を撫でていた手を蛇乃の頬に置く。
「大好きだよ。」




