96 反撃の一手
それでも俺は死にたくない。
まだ葵に「好きだ」って言ってない。
せっかく小雪や朱里ちゃんと仲良くなったのに大して絡んでない。
咲にリベンジだってまだしていない。
「俺はまだ死ねない!」
*
これだけ完璧を備えた男を相手に勝てる方法。俺の中では『若さ』としかその答えを出すことは出来なかった。
若さゆえの素早さ。若さゆえの不意をつく作戦。
だが、それをするにも隙を作るしかない。本来の大剣なら一撃一撃が重たい分、隙は出来やすいはずなのに、この男にはそれが全くなかった。
畑を耕すがごとく大剣を鍬のように振り回し、何度も何度も地面に穴をあけていく。俺はとにかくそれを転がりながら避けた。立つ暇さえ与えてくれない。
そんな中でも俺は中田に悟られないようにしながら生えている雑草を少しずつむしり始めた。
本当に一か八かの作戦だ。転がりながら自分の手元に草が生えていたらそれを引っこ抜き、手の中に隠しておく。
「こんなもんか」
右手いっぱいになるくらい草をためると、中田が大剣を振りかぶった瞬間にそれを投げつけた。彼の顔面をめがけて。
「…………!」
あくまで一瞬の隙を作るため。ほんの少しの間だが彼の視界を防ぐため。
俺は目くらましが効いているうちに立ち上がり彼の後ろに回ろうとした。
「う、痛!」
足が、膝が、腰が。攻撃を受けたダメージと地面を転がり続けた衝撃が、立ち上がった瞬間に俺の全身へと駆け巡る。
だが、そんなことでへこたれるわけには行かない。このチャンスを逃せば次にいつチャンスが来るかも分からない。おそらく同じ手は食らってくれないだろうから、これを逃せば死んでしまう。そのくらいの覚悟が俺にはあった。
「だったらこれくらい何のこれしき!」
意地だ。恐怖だ。そんな抽象的なものが圭自身を動かす原動力として働いていた。
中田が草を払いのける頃には後ろ側に回り、それだけでなく足首めがけて切込みを入れていた。
今日初めて聞く大男のうめき声が轟く。
さらに俺はそのまま流れに身を任せ今度は彼の左側に立つ。いや、立つは嘘だ。そのまま走り続けた。
中田との距離をどんどん広げていく。
「おいおい。この期に及んで逃げる気か?」
そう、逃げてやる。当然若さからも武装の軽さからも、武器を比べても、どう考えてもただ陸上を走るだけなら俺の方が早い。
だが、俺の狙いはそこじゃない。
さぁ追って来いよおっさん! そろそろ片を付けてやるからよ。
ふつうこんなに度胸のある人間はいるでしょうか?
ちなみに今日は七夕(悲しくも雨)。願わくはこの小説がたくさんの人のもとに届き、楽しんでもらえればいいな~と。




