95 いつもと違う……
俺はそっと手を右わき腹に添えた。その手のひらを眺めると赤い。
それが血であることはすぐにわかる。だがこれが、どれだけ緊急の事態であるかを理解するのには少し時間がかかってしまった。
血が出ることにはあの学園にいる以上慣れていた。だが、今回はいつもと違う。体が重いのだ。いつも以上に出血場所にばかり意識が行ってしまう。
「圭君! 何してるのよ。避けて!」
葵の声が無ければ危うく自我の奥底に潜ってしまうところであった。今は戦闘中だ。既に中田はとどめを刺すためか大剣を振り上げ俺のことを見下ろしていた。
その剣がきらりと光ったかと思うと一瞬で降りかかってくる。
俺は転がりながらなんとか直撃を避けた。だが、足からさらに出血。さすがに声を上げずにはいられない。
痛い。今までは斬られてもここまでの痛みを感じることは無かったのに。
「圭君! 何やってるの。しっかり戦わないと死んじゃう――――うっ」
葵もただ俺の方を眺めているわけではない。少しでもこちらに気を逸らせば隙は生まれる。そんなリスクを背負ってでも葵は何かを伝えるため、俺にめがけて言葉を放つ。
「ここは学園の中じゃ無いのよ! あんまり無茶な動きはしないで!」
その言葉の意味をようやく理解した。この戦いで仮に負けてしまった場合、俺たちが蘇生する手段が無いのだ。ましてや敵が俺たちと同じような学園の武器を使っているとは考えにくい。
簡単に言ってしまえばライフポイントという概念がこの戦いにおいては機能しないのだ。
殺されればそのまま死ぬ。
「おらおら、彼女さんなんか見とれてたら死んじまうぜ!」
休む間もなく剣は次から次へと振り下ろされる。それを俺はただ避けるに徹した。それしか出来ない。反撃に出るには態勢が悪すぎる。
それに加えて急に明らかになった「やられれば死ぬ」という恐怖が今までのような生き生きとした戦いをさせてくれなかった。
「はぁはぁ……」
やっぱり体力の消費が激しい。視界も戦闘開始に比べたら悪くなっている。それに比例するように恐怖心だけはどんどん増幅していった。
「駄目だ。何とかしてこの状況を打開しなくては」
ハンマーのように一撃の威力が高い剣を振り回し、鉄のように固い防具を身に着けた、馬鹿力を持つ経験豊富なおっさんに勝つ方法を見つけなければ……。
「俺は本当に死んじまう……」
次回 この状況を打開する方法とは。




