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ロスト学園  作者: 神木界人
8章 特別待遇林間学校
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85 トイレの葛藤

 ジャーと水の流れる音は実に気持ちよかった。いや、音が良かったのか他が良かったのかはさておきとし……。



 そこまでは本当によかった。だが、地獄はここから。正直考えていなかったのだ、後の事を。


 トイレの中は四方が壁に囲まれており、かろうじて上部に空気を入れ替えるための隙間はあったものの外の様子は全く見えないに等しかった。


 そしてそれ以上に最悪なことが、葵出していたシャワーの音が途切れていることである。正直便器でお水さんと大合唱をしていた俺にとっては致命的な出来事だった。


「葵のやつ、一体いつシャワー止めたんだよ」


 もし、これが止めてすぐならば彼女は浴槽に入っているかもしれない。だが、もしかすると彼女は浴槽に入らない主義でもう脱衣所にいるのかもしれない。


 脱衣所の音は聞こうと思えば聞けるのだろうが、何分なにぶん彼女も一人でいるのだからそこにいるのかいないのかの確認はしにくい。


 もちろん彼女が浴槽に入らない主義であるならば、遠い昔に風呂から上がり、もう部屋に戻っているという可能性だってあった。




 どうしたものか。ここで俺が取れる手段といってもそうは無かった。葵がどこにいるのか分からない以上、青鬼というゲームをやっているのと状況がさして変わらない。どこにいるのか分からない敵に見つからずに逃げるってこんなに難しいとは。



 手段はいくつかあった。その一つはここから叫ぶことだ。「葵居る?」とでも聞けば最悪の事態(俺がトイレを出た瞬間に葵がいる)は避けられるはずだ。


 だが、それは俺がここにいることを自白しているようなものだった。「トイレにいるのがそんなに悪い事なのか?」と思う人が居るのなら思い出してほしい。


 そもそもここの入り口には大きく「お風呂」と書かれていた。そして、その横に小さく「兼トイレ」とあったのだ。トイレ目的で来た俺がその表示見つけることが出来るのはともかく、お風呂目的で来た葵がその文字を確認している可能性はかなり低い。


 そして俺はさっきと同じようにトイレ目的でこの場所に入ったからこのトイレのスペースを見つけることが出来た。では、この空間にトイレがあるという事を知らない葵が扉の奥から「葵居る?」と聞かれてどう思うか。それはもちろん覗きでしか無いだろう。そもそも廊下側から声がするならともかくこの位置はあまりにも怪しすぎた。




 二つ目に思いついたのは、とにかくここにこもって待つことだ。扉を開ける音などがすれば確実に葵の位置を確認できる。

 だが、この作戦にもデメリットはあった。それは……。



「臭いこと」



 我ながら自分のしたものだけど強烈なにおいを放っていた。もちろん便器に座ってまだ出そうとするならあまり匂いも気にならないが、ただこの場所に隠れるだけとなればだいぶ気になる。

 さらに、葵がすでに部屋に帰っているとしたら、俺は一体いつまでここに隠れていなければならないんだ!



 そして最後の手段が「もう出る」だ。一か八かなところはあるがそれに賭けるしかなかった。葵が浴槽に入っていてくれれば問題ないのだ。


 そう心に言い聞かせて俺はトイレの扉をつかんだ。


ホントお下品でごめんなさい。

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