84 聖域へ
「う、うおぉ! 死ぬ、死ぬ‼」
もはや色々なことを考えている余裕は無かった。
俺はお風呂の前で腰をひねり、いわゆるモジモジ状態で突っ立ちながら一人劇を繰り広げていた。
「他にトイレを探す」という天使のささやきと「もうここに突っ込んでしまえ」という悪魔のささやきに惑わされる悲劇の主人公。
だが、ふと我に返ると、風呂の前でこんなことをしていること自体変態なのではないかという疑念が湧いてくる。仮にもこの姿を陽子さんに見られたとしたら、葵が目の前から出てきたとしたら。
そして考えている暇がない事もまた事実であった。
「こういうのを背に腹は代えられない」って言うのかな。この間授業で出てきたものはすぐに使ってみたいというのが高校生というお年頃なのだ。
俺はゆっくりと扉を開けた、銭湯にあるような横にスライドするタイプのドアだったから、ゆっくりと顔を突き出しながら引っ張る。
ある程度開くと、シャワーの流れる音が聞こえてきた。これで葵はまだ出てきていないことが確定する。
俺はラッキーと軽くガッツポーズを浮かべると、今度は陽子さんにバレないようにすぐに扉を閉じた。
中は温泉街の脱衣所のようになっており、左側の棚のロッカーというか小学校の頃後ろにあったランドセルをしまっておくようなコの字型の衣類を置いておくためのスペースがあった。
その一角に、がさつに葵の物であろう服が置かれていた。ピンク色のパンツだったり、白いブラジャーだったりとが丸見えな辺り危機管理がなっていない。全く目のやり場が無くなるじゃないか。
それはそうと扉の反対側に広がるのがお風呂場、左側がロッカーとなれば自然と俺の目線は右側へと移っていく。
基本的には壁しか存在しない右側だが丁度お風呂場と入り口の中心くらいの場所に四角いスペースが存在していた。
ドアもしっかりとある。
「あそこか」
あの扉こそ俺が今目指すべき場所。すなわちトイレで間違いないだろう。
シャワーの音は続いていた。今、素早くあの部屋に駆け込めば俺はきっと救われる。誰にもバレることなくトイレを済ませることが出来るだろう。
そして俺はスタスタというか千鳥足というかとにかく普通のまっすぐした走り方とは遠くかけ離れた小走りでその扉まで近づき、そして聖域を開いたのだった。
何か今度別の場所でも使えそうなタイトル(笑) ってかこれをタイトル詐欺というのでしょうか?
とにもかくにも聖域にたどり着けて良かったね




