82 夕食Time
「は~いおしまい!」
たった一人この大地に足を踏みしめている陽子さんは高らかに終了宣言をした。
「ほらほら、そんなところで寝てないで、さっさと宿に帰るわよ…………って言いたいところだけどまぁいっか。体力が回復したら戻って来てね。私は先に帰ってるから」
陽子さんは俺たちに告げると、そそくさと宿の方に。
そんな彼女に対して返事も出来なかった。
金属バットを振った後に、まさかもう一度最初のランニングコースを走らされることになるとは思ってもみなかった。
もう、足は鉛以上に重く一歩でも動こうものならお祭りやって崇め奉ってほしい。
なんて駄々をこねたところで誰かが回復薬みたいなものをくれるわけでも無いので、俺と葵は互いに肩を貸しあいながら死に物狂いで宿まで帰った。
お互いに肩取り合ってずるい! とか言うなよ。こっちは死に物狂いだ。異性の病人背負ってドキドキする奴なんていねぇーだろ。
*
宿に付いた俺たちの前には目を疑うような光景が広がっていた。
俺たちの帰還を祝福するかのようにおせち料理ばりに大量のごちそうが並べてある。
一瞬バイキングに迷い込んでしまったのではないかと思ってしまうほどだ。
「あ、やっと帰ってきた。もし帰ってこなかったらこれが無駄になっちゃうって心配してたんだよ」
さらっと陽子さんは俺たちの心配ではなく、食事の心配をしていたと暴露したのだが、もはやそれも仕方ないと思う。本当に有無を言わさぬごちそう達がそこに並んでいるのだから。
「こ、コレどうしたんですか?」
思わず聞いてしまった。
「どうしたもこうしたも作っただけだけど。料理にはね、ちょっとばかり自信があって、この一週間は君たちも幸せだよ☆」
アイドルのようなポーズを決める陽子さんだったがそこはスルーで。だってよくよく考えたらこの人、50や60くらいのおばあちゃんだよ。「キラッ」って効果音のつきそうな言動は気持ち悪いもほどがあるでしょ。
そんなことを抜きにしても返事に乗れるだけの体力が無かったという事もあるのだが。
「まぁ乗りが悪いのは見過ごしてあげるから食った食った。ご飯食べて元気出さないと、明日からの特訓にも耐えられないからね」
促され、俺と葵は席に着き、そして目の前に広がる食べ物たちを口へと運んだ。
味噌汁もご飯も、焼き肉もサラダも、何を手に取って口に運んでも自然と涙がこぼれる。疲れているせいかもしれないが今まで食べた食事の数十倍は上手かった。それは葵も同じようで食事中俺と葵はずっとずっと「美味いね。幸せだね」って言い合ってった。
後でよくよく考えたら究極のバカップルでしかなかったんだよ。この光景は。
そしてこの食事を彼らはゼロ円で食べております。が、ずる~いと思う方は山の中を走り金属バットを百回振ってからもう一度山の中を走ってください(笑)
次回もまだ宿の中でてんやわんやすると思います。




