72 魔剣vs魔法石 1
「逃げずにここに来たことは褒めてあげるよ葵ちゃん」
放課後、校庭から少し外れた人目のない場所で守は立っていた。
「当たり前でしょ」
その彼のもとに葵は一歩ずつ歩みを進める。
そして俺は木の陰から二人を眺めていた。もちろん出て行っても良かったのだが、やっぱり決別というのならば二人だけでやらすのがいいだろう。
「さて、葵ちゃんには悪いけど、この戦いだけは僕が勝たせてもらうよ。それからは葵ちゃんの事は僕が守ってあげるからね。昔みたいに」
守は自分の腰もとにある鞘から剣を抜きだした。遠目からでも分かるほど漆黒に塗られた剣。一種の工芸品のようだ。
「朝とは違う剣を使うんだ」
「もちろん。僕も本気だからね。これは魔剣『グラジュエイト』。僕のためだけに作られた剣さ」
彼は己の剣を軽く弄びながら紹介した。それに対抗する葵の剣は朝と同じ彼女の剣――レイピアしかない。
圧倒的に不利なのは目に見えていた。
*
「さて、じゃあ始めようか」
守の言葉を合図に戦いは始まる。
先制攻撃を図ったのは葵だった。彼女はまっすぐ彼に向って走り出す。
「いい切込みだ」
正面を攻めるように見せかけて目は左斜め前を向いている。おそらく守の剣を一つ躱したのち側面から剣を突きつける作戦だろう。
「ふん。この魔剣『グラジュエイト』に真正面から向かってくるとは愚の骨頂。重力変換」
だが、守は葵が彼のもとに届くよりも前に剣を上から下に振り下ろし空を切った。葵との距離もまだあるにもかかわらず彼は空振りを一発入れたのだ。
その瞬間葵の動きが止まる。
葵が一歩も動けなくなったのだ。
「ぐっ……。な、何をしたのよ」
「葵ちゃんのもとに大量の重力を掛けた。普通にかかる重力の数十倍はあるから、まぁ四つん這いにならざるを得ないよね」
葵から当てられる下から覗きあげるような視線を受けながら、その目を見ることが幸せと言わんばかりに守は嫌な表情を見せていた。
「さ~て葵ちゃん。結局放課後も俺に剣を当てるどころか一回も振るうことなく負けちゃったね。でも、しょうがないよね。弱くなった、何の訓練もしなかった葵ちゃんが悪いんだもんね。でも大丈夫。僕が鍛え直してあげるからさ。またバリアーズの時みたいにいつでも一緒に居てあげるからさ」
守は剣を振り上げる。さすがに俺も飛び出してしまいそうになった。いや、何なら一歩前に出ていた。
だが、その足を止めてくれたのは葵の一言。
「バカはどっちよ。油断して堂々と間合いに入り過ぎよ」
そして俺は初めてアイスストーンの放つ魔法を見るのだった。
「冷却‼」
なんかファンタジー感を出すために「漢字×カタカナ読み」というありがちな手法で魔法系の攻撃を書いてみました。これからすべてそのスタイルで行ける気はしませんがいかがでしょうか?
次回は二人の戦いの続きです。




