70 最後の言葉
葵(小学五年生)視点も今回が最後です。
私の目の前に一人の人間が飛んできました。一瞬ではあったものの、地面と平行になり体をすべて宙に浮かせた状態で彼は飛んでいるのです。
片手には箒、もう片方の手には中央に穴の開いた塵取りを抱えた彼はそのまま地面に激突し、私の目の前で倒れこみました。
「守君⁉」
そう声を上げて近づこうとした瞬間、彼もまた大きな声で「来るな!」と叫びました。私の足はその声にビビり竦んでしまいます。
彼に止められて私は少し冷静になりました。冷静になると見えるものがたくさん増えます。
守君の腹部から永遠流れだす血液。廊下の色と似ているせいか、私の立っている場所まで彼の血が流れているように感じます。
そして彼の息遣いは荒く、顔色も普段とは全然違う様子でした。本当なら痛み苦しみで、もがきたいだろうにそれすらも許さぬ体力の低下。小学五年の私が見てもそこまで感じ取れるのです。相当な重症である事は間違いありませんでした。
奥では先生と不審者が言い合っている声がしています。これなら私が突っ込んでも撃たれる心配はないでしょう。なぜか分からないがそんな根拠のない自信が私を後押しして、彼に近づく勇気をくれました。
多分守君の言う事を破ったのはこれが初めてでした。
「守君! 大丈夫?」
そう声を掛けると彼はぐったりとした表情で首を縦に振ったのか横に振ったのか、とにかく彼は首を動かしました。
そしてその時保健室の先生も駆けつけてくれたのです。
「確か、川上さんだったよね。彼はすぐに治療が必要なの。少しだけ下がってもらえる?」
私もさすがに先生にも反抗する……なんてことは出来ませんでした。
指示通り、一歩引いて彼の様子を伺います。
じきに他の先生が担架を持って来て、素早く彼は乗せられてどこかに運ばれていきました。
遠くの方では微かにですが救急車の声も聞こえていたのできっと助けが来たのでしょう。
そんな彼が担架で運ばれる直前。本当に耳を澄ませていなければ聞こえていなかっただろう、かすかな声で、私にメッセージを残してくれました。
「駄目だ。やっぱり強さが無ければ何にも守れやしないや」って。
それが私の聞いた彼の最後の言葉でした。
最後の言葉と言っていますが、まぁご存じの通り守君は生きておりますので(笑)
これでそれとなく葵の過去はほぼ終わりです。次回からは視点もいつも通りの圭君視点に戻りたいと思います。ここ数日間頑張ってくれた小学五年生の葵ちゃんお疲れさまでした!




