35 儚い夏休み(後編)
「キャー!!! 痛いです」
だが、俺の平和であってほしいなんて願いとは裏腹に朱里の悲鳴が空へと突き抜けていった。
「何しているんだ! 離せ変態」
「落ち着いて朱里ちゃん、雪ちゃん」
どうして事あるごとにトラブルが起こるのだろうか? まぁそんなことを考えている暇なんてない。一刻も早く朱里を助けてあげなくては。
俺は二十メートルほど離れているプールにめがけて一直線に走り抜ける。
「誰だ! 朱里をつかんで離さないやつは、ぶっ殺してやる‼」
そして水辺に向かうにつれて俺はこぶしを振り上げた。
そんな俺を女子三人は冷ややかな表情で眺めている。
おい! どうした? 朱里ちゃんが襲われているってのになんでそんな冷静に――
「圭君何言ってんの? たかが『カニ』に対して、そんなに熱くならなくても……。バカよね~」
と、葵のその言葉は俺の足を一瞬で止めて見せた。
カニ? よくよく見ると朱里の足には赤くてそこそこの大きさをしたカニがくっついていた。
自分でも顔が、このカニのように真っ赤に染まっているのが分かる。 え、ナニコレ? 俺チョー恥ずかしくね…………。 いくらなんでもカニに向かって『ぶっ殺してやる』って。
「って! どうしてカニがいるんだよ! ここプールだろ。海じゃなくて」
取り乱す俺に対して小雪は冷静に「あれ。見て見ろ」とある看板を指さした。
『海水にいる生物に注意』
「知らないのか? ここは海水浴の気分が楽しめるように、たくさん海の生き物が住んでいるんだ」
「でも、あそこまで必死に心配してもらえてうれしかったですよ」
もう、ヤドカリのように砂にでも潜ってしまいたい俺のことを朱里は優しくも庇ってくれた。
それに合わせて葵も「ま~せっかくプールに来てるんだから楽しも」と俺を受け入れてくれる。
それからはビーチバレーをやったり、水を掛け合ったり、タコに墨をかけられたり、サメに追いかけまわれたり……。
いろいろあったがそれなりに楽しかった。 たまにはこういう一日があってもいいものだ。
「あぁ~楽しかった」
その帰り道。俺たちは四人でプールから更衣室の方にめがけて歩みを進めていた。楽しかったことは楽しかったのだが疲れもたまっていたのだろう。すっかり気を抜いていた。
「で、風川。お前はどこまでついてくるつもりだ?」
「ここ。女子更衣室……ですよ」
俺は女子たちと話の花を咲かせているうちに、入ってはならない場所まで侵入していたのだ。
「圭君は女の子のいろいろなことが知りたいんでしょ。女子更衣室に入るのもこれで二回目だしね」
「ま、まさかそんなわけな――――」
「変態め! 問答無用」
言い訳をする余裕なんて与えず、小雪は更衣室に置いてあった剣を振りかざす。なんでこんな所まで持ってきてんだよ! てか今殺したらあんたら絶対俺の事保健室まで運ばねぇだろ。
そんな窮地に立たされているというのに葵に関しては暢気に「見せたげよっか。色々なところ」と言いながら服を脱ぎだす。
アホか! この状況で誰が好き好んで見るんだよ! こっちは命の危機だぞおい。
「死ね! クソ変態」
ロッカーが壊れ、いすが舞い上がり、扉が吹っ飛ぶ。そんな戦地からなんとか命からがら逃げだすことが出来た。さて、これ誰が修理費払ってくれるんだろうか?
最後の最後までひどい目にあった。結局思った通りリフレッシュになんてならなかったじゃないか。もう夏休みも終わり。俺に着せられた『変態』という誤解は――――まぁ今度解けばいいか。
(ちなみに更衣室の修理費は学校が出してくれたものの、二学期初日から説教食らうことになった。
のだが二学期初日はもっとビックイベントがあったがゆえにもはや何とも思う事は無かった)
なんかユルフワグダグダで4章「気分転換」編改め小雪・朱里編は終わりです。
次回から新章に入ります。もうちょっと話は動くかと……




