29 試着室にて
視線が痛い。
その一言に尽きた。葵が俺を連れて入った服屋は女性服専門店。そしてその中にある、試着室の前で一人取り残される男の俺。周りのお客さんも当然女性ばかり。男性の「だ」の字もない。さて、他の人たちには俺のことがどう見えるだろうか?
多分何十人に聞いても同じような答えが返ってくるだろう。
『試着室の前で出待ちしている変態‼』
その見えない声に耐えかねたのと、ここに至るまでにいろいろなものを飲まされ食わされたせいでトイレにも行きたかったことと。
「少しくらい大丈夫だろう」
葵からは更衣室に入る前に「圭君には着た服を見てほしいから待っててね」って言われたけど俺はこの場を離れることにした。
*
トイレも無事終え、俺は試着室前まで帰ってきた。
葵の入った更衣室はおろか、ここにある更衣室は三つともカーテンが閉まっている。
そんな確認をしているさなか、
「ね~いいよ。開けて~」
というただただ甘い声が聞こえてきた。意外と更衣室から声を出すとどこから声がするか分からないものだった。真ん中に入っていったのにやや左側から聞こえてくる。
ってそんなことはどうでもいいんだよ! なんでどっかのテレビ番組ですらやるかやらないかという微妙なことを街の服屋さんでやらなきゃいけないんだよ。
ただ、それからしばらく待ってみても葵の出てくる気配は一向にない。
かといって俺がまたここで我慢比べをするのも嫌だし、彼女に待っててと言われた以上ここから逃げるわけにもいかない。
仕方なく俺は覚悟を決め「開けるぞ」と声を掛けてから威勢よく試着室のカーテンを開けた。
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
「え……………」
自分で「開けろ」って言っておいてその反応?
すぐに閉めようとかとも思ったが彼女を見ずに閉めるのも失礼かと考え俺は前を見た。
するとそこには裸の葵――――じゃない女の子がいた。
「えぇー。き、君は誰?」
「バカーーーーーーーーーーーーー」
俺の言い訳タイムなんて一切なく、頬をはたかれる。
が、さすがに言い返したり、やり返したりはできない。
「ど、どういう事だよ」
俺も混乱が収まらないうちに、今度は後ろからものすごい殺気を感じた。いや、感じたときにはすでに遅かった。
「うぎゅぎょ………………」
振り返ったこともあり腹部に内蔵がすべて飛び出るレベルの飛び蹴りが命中。
これ、避けていれば確実にそこの全裸少女を殺す勢いだ。
「この変態!」
器用に手を使って、体を地面につけることなく立ち上がった飛び蹴り少女は、数日放置して扱いに困る生ごみを見るような眼つきで吐き捨てる。
そこに「ど~したのよ~」と葵が現れたときにはすでに時遅しだった。
いや~さすがに試着室のカーテンを開けろっていう葵の方が今回は悪い気がします。
次回、圭君はこの誤解(いや、まぁ開けたの圭君だし誤解ではないのですが)は解けるのでしょうか?




