26 乱闘戦の行方
「隙を見せたな! 圭とかいう男‼」
『あるやつ』の勢いは止まることなくこちらに向かっていた。剣を構えて防御するにも時間が足りない。
俺がどうすることも出来ず佇んでいる間にさらに距離を詰められて、その差はほぼ無いに等しいくらいだった。
「うぅ…………」
俺の足元には鮮やかな赤が無残にも大量に流れ、グラウンドの土を色づけていく。
俺は目の前でおきた現実に声を出すことすらできなかった。
「ど、ど、どうして…………」
それでも俺は声を振り絞った。何とかして言葉にする。そうしなければならないと俺の脳が警告を出していたのだ。
「し……しょう。 無事? でした?」
俺と『あるやつ』の間にはさっきこいつの剣を避けたばかりの由美ちゃんがいた。
彼女が俺の腹部に刺さるはずだった剣のすべてを体で受け止め、中腰の状態で立っている。体重のすべてを『あるやつ』の剣にゆだねている感じだった。それゆえに剣が引き抜かれると同時に彼女は弱弱しくグランドに倒れこむ。
彼女の声はかすれてた上に途切れ途切れだった。それでもしっかり俺の耳元には届いている。だからこそ彼女に伝える。いや、伝えなくてはならない。
「あぁ」と。「俺は元気だ」と。
「はぁ、はぁ、よかった…………です。師匠、無事……だったのですね……」
「お、俺は無事だが、お前は……」
もはや彼女の虚ろな瞳に俺は映っていなかった。
「私……ですか? 私はいいんです。もういい……十分です」
なのに、彼女はすごく嬉しそうに。前日の出かけたときに見せてくれたものよりも素敵な笑顔を見せてくれる。本当に心から「十分だ」と言っているようだった。
「バカ言うなよ! 何が十分だ。お前は、お前は俺と違ってもう命が無いんだぞ! それなのになんで庇ったりなんか……」
最初の方は諭すような気持ちで強く言っていたけれども、彼女の顔を見ていると次第に声がしゃがれていき、抑えきれない気持ちが溢れてきた。
「いいんですって。死にそうなのに何回も言わせないで下さい……。それよりこんな私に協力してくれてありがとうございました。
ゲームを一緒にしたり、勉強を私が教えたり、一緒にデートみたいな事したり、すごく……すごく楽しかったです。
はぁはぁ、い、一緒に勝って終わろって、村を壊した男を倒そって言ってくれて……はぁーそれであいつ《あるやつ》に一発攻撃を当てられたときはすごく気持ちよかったです。
たったの数週間しか無かったのにまだまだお礼を言いたいこと、伝えたいことはたくさんあります。
でも、最後に、最後に一つだけ言わせてください。私の最後の命…………今までで一番充実したものでした。こんなに最高な最期を迎えられたのは師匠のおかげです」
目の前で彼女はか細いながらもしっかりと想いの伝わる声で、懸命に言葉を紡いだ。
何か言ってやりたい。これだけ辛い状態にも関わらず俺に想いを伝えてくれた由美ちゃんに応えてあげたい。でも、何一つ言葉が出てこなかった。なんてバカなんだ。俺は一体何をしているんだ。
「ありがとっ――――そして…………さよなら」
彼女の声は激しく金属音が乱れあう戦場にひっそりと消えていった。
これで本当の序章、いわゆるアニメの三話が終わった感じです。
それ以上に言う言葉はありません。
また明日お会いしましょう。




