108 強者の矜持
俺の視界に映っていたのは力なく地面に倒れた咲とそれを踏みつける葵。その姿はさながらフランス革命の前における市民と貴族の関係を象った風刺画のよう。
そんな風に友を踏みつぶし高笑いする彼女は確実に俺を見据え、
「圭く~ん待っていたわ」と一言。
悪役さながらの彼女だったが俺が驚いたのは彼女の性格の変わり用でも咲を踏みつぶしていたことでもない。
普通にしゃべっている。
他の生徒は「風川圭を殺す」としか言わなかったが、確実に彼女は俺に会話として言葉を投げかけた。
「葵、なぜこんなことをするんだよ!」
会話が成り立つならばと。俺もまた彼女に問いかける。この洗脳事件の黒幕が分かるかもしれないと期待して。
「ん? 何でこんな事するかって。そんなの簡単じゃない。圭君を殺して私が一番になるためよ。咲はこ~んなにも簡単に死んじゃった。後は圭君を殺せばクラス一位よ」
だが、狂乱な笑顔と高らかな声はそう告げるにとどまる。俺を倒してクラスで一番になりたいと。
「それは嘘だな」
だが、俺は彼女の意思を否定する。いや、違う。彼女に無理やり植え付けられた意思を。彼女は今まで俺に勝ちたい、クラスで一番になりたいなんて口にしたこと無い。俺と共に素敵で最高なパートナーとして卒業するために戦ってきた仲間だ。どっちが上でどっちが下とかそんなくだらない話考えたことも無い。
だが、彼女は首を振った。
「嘘なんかじゃない! 一位になりたくて何が悪いのよ」
まるで今までため込んでいたものをぶちまけるかのように。その目は揺るぎない想いで満たされていた。
とても操られているようには見えない。それに彼女から発せられるオーラは他のA組の生徒から感じるものとは似ても似つかない。
「まさか本気で俺を倒してクラス一位になりたいとか馬鹿な考えをしてるんじゃないだろうな」
彼女はただ頷く。「それのどこが馬鹿なのよ」と
「ったく一位になったら何なんだ。なんか賞金でももらえるのか? その名誉が手に入ったらみんながお前にひれ伏すとでも? 大間違いだ!」
「……………………」
「現段階では葵の言う通り俺がクラス一位だよ。でもな、一位だからっていい事なんて何一つない! 一位だから特別な待遇があるわけでも無いし、皆から神様みたいに扱われるわけでも無い。むしろ何をしてもあいつは一番強いからって、普通の人がやったら手柄になるようなことをやっても特に褒められないし、称えられない。葵にだって身に覚えがあるだろ。特別待遇林間学校とか言って無理やりヤバい奴らと戦わさせられたかと思ったらバトルチップをたくさんもらえただけで感謝の言葉も賛辞の言葉も無い。それに加えて誰かに勝ちたいって向上心も生まれなければ、一位であり続けなければならないってプレッシャーだけが押しかかってくる。一位なんてそんなものだ。全く嬉しいもんじゃねぇよ」
「圭君の方こそ何も分かってないじゃない‼ あなたはいつもいつも一位だからそうな風に言えるのよ! ずっと二位や三位で居続ける方がどれだけ精神的に苦しいか。どんなに努力しても、頑張りぬいても結局超えられない。そんな思いしたことないでしょ!」
「無くねぇよ」と言いかけて俺は己を止めた。今葵に必要な言葉はそんな同情の言葉じゃない。
「精神的に苦しいのは良く分かる。なら俺から言えるのはただ一つ」
『全力で俺を倒しに来い‼』
よく漫画とかで「ずっと二位だ」って苦しんで一位をひがむキャラいますけど、一位は一位で圭君の言う通り辛いですからね。ずっと目標掲げて全力で走ってくる人間が真下にいるんですから。大して一位のキャラは向上ではなく現状維持のために頑張るんですよ。万年一位は負けるわけにいかないというプライドがありまくりですから。




