神様と行動
「え?」
今私がいるのは、あの異世界に来る直前の場所だった。
イザヤと会話した、あの場所。
「どうしてここに……」
「よかった、来れたみたいだ」
振り向くと、イザヤが立っていた。
「イザヤ……私、どうしてここに? まさか死んだ!?」
「いや、死んでないよ。……君を呼んだのは僕だ。君に頼みがあってね」
イザヤの表情がどことなく固い。
嫌な予感しかしない。
「頼みって?」
「君の今いる世界。そこで、邪神復活の儀式が行われた」
「!?」
邪神!?
「邪神が復活された場所は分からない。でも、そいつが暴れだすことがあれば、冗談抜きに世界が終わる」
「え、うそ、それダメじゃない!?」
「うん、ダメ。だから君には、邪神が完全に力を取り戻す前にをもう一度奴を封じる手助けをしてもらいたいんだ」
手助け? 一体何?
「イザヤ……私は何をやればいいの?」
「君には、神器を集めてもらいたいんだ」
「神器はどこにあるの?」
「うーん……神器は欠片になって世界中に散らばっていて、全部で十個あるんだけど……僕にはそのうちの三つしかある場所が分からない」
「それでいい。教えて」
イザヤが空中に手をかざすと、半透明の地図が現れた。
「これは君の今いる世界の地図だよ。ここが、君の家」
イザヤが地図の一点を指さす。
森の中に、赤いポインタがついている。間違いなく私の家の位置。
「場所の分かっている神器があるのは、まずエストレイラル王国。でも、国宝だ」
「いきなり厳しい……」
「次に、ディアブル王国。君の使い魔なら絶対に分かると思うよ。そこは冒険者の国だからね」
「ここのやつは国宝?」
「いいや。ただ、強力な魔物のいるダンジョンにある」
「私なら勝てない?」
イザヤは考えるように顎に手をあてていた。
何? 何か問題でもあるの?
「うーんとね、魔物は君なら問題ない。でもね、神器を守るように張られている結界を解くにはディアブル王家の人間の血が必要になる」
「こっちも難しいーっ! しかも場合によってはエストレイラルより難しいじゃない!」
王族の血って! 何に使いますかって訊かれる!
お構いなしにイザヤには話を進められる。
「で、最後にサダファティ帝国。ここの辺境の村の教会に、神器がある」
「……どうせそれも『村の至宝』とかなのね」
「おお、勘がいいね。その通りだよ」
「勘は関係ないでしょっ! この流れは絶対にそういうものよ!」
どーするのよこれら! 他の神器の場所も分からないしさあっ!
「うううう……ねえイザヤ。神器ってどういう形?」
「君の故郷の日本でいう、『銅鏡』に近いものかな。欠片が十個あって、全部集めると飾りの施された鏡になるんだよ。それを媒体にして、邪神を冥界に送る」
「オッケー。じゃあ、その欠片を集めればいいのね」
「ああ、僕もそれは手伝うから。人界に降りるよ」
……ん、あれ? 今さらっととんでもない事口にしなかった?
「えっと……今なんて?」
「ん? だから、僕も君の今の世界に行くよ、って」
まてよ……私の加護は『全能神の加護』よね。これイザヤが付けたものなのよね?
じゃあイザヤは『全能神』ってことよね!?
「いやいやいやちょっと待って! 行っちゃって大丈夫なの、イザヤは!?」
「うん、問題ない。ちょっと神域に比べて力が制御されちゃうけどね」
あははと笑うイザヤはどこまでも軽い。
神域より力が制限されるって、それでも強さが怖い感じしかしないんだけどね……。
「でも」
イザヤはスッと真剣な表情となった。
「邪神や神器のことに関しては、僕はしっかりとやる。それに、特殊な状況下なら僕は全力を使えるようになるからね」
「特殊な状況下……どういうものかな」
そっちの方が気になっちゃったり。
ダメねぇ、私。
っていうか私を含め、私の周りには好奇心旺盛な人が多い。
「さて、そろそろ行こう」
イザヤが指を鳴らすと、視界が真っ白に染まった。
「え、あ、ちょっと!?」
また視界が暗転して……目を開けると、イザヤが私の顔を覗き込んでいた。
そのバックには、よく見慣れた空とそこを飛ぶ空鳥。
戻ってきたみたい。今、朝になってるけど。
「……イザヤ、こっちに来れたんだ」
「この世界は僕の管轄内だからね」
「神様にも管轄とかあるんだ。っていうか何人いるのよ神様って」
その時、地下ハウスからハクとコクが出てきた。
で、いきなり臨戦態勢をとられる。
「ん? どうしたの?」
「サクヤ……そいつは誰だ」
うーん……警戒されるよね。
「えっと、この人は……えっと……ごめん、自分で言って」
神様の説明は難しい。
イザヤはそんな私の心も読んじゃうもんだから、面白がっているようにしか見えない笑みを浮かべている。
「僕の正体、コク君なら分るんじゃないのかな? 君のスキル『覚り』があれば心を読むのなんて容易いでしょう?」
「な、なんで僕の名前を! まさか鑑定ですか?」
「違う。僕は咲耶を通じて君たちの事も見ていたんだ」
「え、それほんと?」
驚いて声をあげたのは私だった。
だって、ずっと見られてたって! 声をかけた時反応してたけどさ!
「まあ、今は使えないけど鑑定眼Sのスキルは持ってるけどね。……さて、使い魔の君たちには咲耶の事を教えておいた方がいいかな」
コクとハクの身体が緑に光った。
一瞬だったけどね、結構高くて硬い音をだして光は消えたけどね。
直後。
「サクヤ様、異世界人だったんですか!?」
「もしかして、今までの非常識な発想や行動はそれが原因か!?」
使い魔二人の驚いた声に私も一瞬驚いた。
すぐに我に返ったけど。
「あー、えっと………ま、いっか。うん、そうだよ。フルネームは神薙咲耶。異世界の知識を駆使しまくった。出来る範囲で」
地下ハウス始め、カッターシリーズやスパゲッティの調理方法まで。
あ、おいイザヤ! その顔は何、楽しんでるんじゃない!
そのニヤニヤ顔のままイザヤは話を続けてたり。
「ハク君には僕の正体を伝えてなかったね。僕はイザヤ。この世界管轄の全能神だよ」
コクはスキルを使ってあったのかさほど驚かない。
リアクション期待したんだけどな……
そしてハクは……盛大に呆れていた。
「規格外…………!」
どういう意味での呟きかは知らない。
なんか、知ろうとも思わない。危うい感じがするもの。
「さてと。落ち着いたかな? 僕がこの世界に一旦降りてきたのは、邪神を封印するため。そのために、咲耶には手伝ってもらうよう頼んだんだ。必然的に君たちの力も借りることになるだろうけど、良いかな?」
「私はサクヤ様が構わないのなら従います。使い魔ですから」
「俺も同意だ。知ってしまったのだし、拒否権はないのだろう?」
「流石。拒否したんだったら、即記憶を消していたね」
え、イザヤちょっと怖くない?
まあ……私が異世界人なのは知られない方がいいのかな?
「えっと、というわけで早速旅に出ます。コクとハクは、ディアブル王国とサダファティ帝国には行ったことある?」
「ディアブルには行ったことがありますね」
「冒険者の国として有名だからな。冒険者ギルドの本部もあったと思うぞ?」
「その神器の情報を得たいなら、ディアブルで話を聞くのも手かもしれませんね。冒険者は世界中を巡りますから」
なるほど……エストレイラルは宰相様が怖いし、冒険者って憧れるし、行ってみようかな。
冒険者ギルドがあるってことは、登録とかは必要になるのかな、冒険者って。
「よし。二人には私の瞬間移動の仕組みを教えるから、送って」
「スキルリンクですか?」
「そ。私の使ってる瞬間移動って、術者が行ったことのある場所にしか行けないのよ。ステータスリンクも使うから、送って」
その後、イメージ補正のおかげで早いらしいけど一時間ほど練習に費やし……めでたく、二人は瞬間移動を使えるようになったのだった。
「さ、行こ!」
二人の力を合わせてもらって、複数人の転移を可能にしておく。
そして景色がパッと変わったかと思うと……細い路地に立っていたのだった。
「よく二人ともここまで調節出来たね」
凄くない? 私より。
狼の魔物だし……本能的なものでやってるのかな? それが天才だっただけ?
まあ、細い路地に来れたならオッケーだ。非常識な魔法の瞬間を見られなくてよかった。
「あ、そうだった。咲耶とコク君ハク君は主従関係だよね? 僕がちょっと工夫して念話が出来るようにしておくよ」
「え?」
イザヤが急にそんなことを言い出したかと思うと、彼はパチリと指を鳴らした。
すると一瞬視界がオレンジ色になった後、ステータスを確認したら追加スキルに『念話』が登録されていたのだった。
「これ、僕ら四人の間なら自由に念話出来るからね。どこにいても繋がってるよ」
「へえ……イザヤの非常識な神がかり的部分を見たけど、これは便利かも」
コクとハクはもう微動だにしていない。
我に返るまで放置しておく。
早速念話でイザヤに言うか。
念話オン!
『イザヤ、神様としての力ってここで使っちゃって大丈夫なの?』
『うん、多分大丈夫。もう神々には許可取ってあるからね、君をかんさ……力を与えることについては』
『うん? 今なんて言いかけた!? 観察って言おうとしてなかった!?』
『……気のせいだよ』
何故目を逸らす! この全能神っ!
……あ、コクとハクが我に返った。
「す、すみません! 驚いてしまって……」
「規格外に拍車がかかってきているな……まあ俺も巻き込まれているわけだが」
うん、何かその気持ちは分かる。
本物の規格外は私とイザヤだから、多分二人は普通に入ると思うよ! 慰めにもならないけど。
「二人ともー。冒険者ギルドって何?」
「冒険者になる上で欠かせませんね。依頼や、魔物から採った素材などを買ってくれます」
「冒険者になりたい者はそこに登録する。依頼をこなすほど、もっと難しい依頼に挑戦できるようになるんだったか?」
あれ? 疑問形?
もしかして?
「もしかして、二人は冒険者ギルドに登録したことが無いの?」
「魔物ですから」
「魔物だからな」
あっさりしてる……魔物は登録出来ないの?
「二人の場合、獣人で通らないの?」
「冒険者は登録すると、適正職業などを確かめなければならないんですけど……私達は魔物ですから、まず職業というものがありませんし。下手したら魔物だとバレるので分からなかったんですよ」
あーなるほど。前例が無いというわけか。
それより職業!? 楽しそう!
「よーし、冒険者ギルド行くぞーっ!」
そして、場所が分からないから二人に教えてもらった。
ご対面、冒険者ギルド!
……思ったよりずっと大きかった! まあ、本部らしいからね。
早速入る。
他の三人には待っててもらうか。人間は私だけだものね。
……異世界人だけど。ステータスバレないかな……不安。
「わあ………」
大きい、広い!
あ、受付はあそこかな。
「すみませーん!」
すると、受付嬢さんがすぐにやってきた。
「ようこそ、冒険者ギルドへ! 冒険者への登録ですか?」
「はい!」
「ではまず、冒険者カードを作成しますね。お名前を教えていただけますか?」
名前か……確か、名字は貴族だけだよね。
「サクヤです」
「サクヤ様ですね。では、この水晶に手をかざしてください」
受付嬢さんが持ってきたのはボール大の水晶。
言われた通りに手をかざすと……水晶の内側に文字が浮かび上がった。
この世界の文字と思われるものだったけど、自動翻訳が働いて書いてある意味が読み取れた。
書いてあることを理解した瞬間、水晶の正体が気になった。
「……えっと、この水晶って何ですか?」
「職業の適性を調べるものです。水晶の内側に表示されたヒントに従った職業が、使えるようになる職業になりますね」
受付嬢さんは営業スマイルのまま言う。
私は、非常に困ってどう言い訳しようか考えていた。
水晶の中に浮かび上がったヒント、私のものは……『全職業』だったのだ。
直球過ぎない? ヒントでも何でもないでしょ!
あ、でも私どんな職業があるか分からないし……ヒントと言えばヒントか。
「あの~………どんな職業がありますか?」
「そうですね……全部で三〇の種類があります。あちらの紙に書いてありますよ」
「なるほどー」
あとで見てみよう。
職業は、手の内を明かすことにつながる恐れがあるため言わなくてもいいらしい。
その水晶の情報を冒険者カードに移して、後はカードに血を吸い込ませれば終わり。
その血は、物凄く便利な針を使って採った。
こういうところって、防御力無視の効果付与の針が用意されているらしい。
戦士などの職業の人は防御力が高くて普通の針では通らないことがあるそうな。
カード更新でそういう職業の人が来るから必要なんだって。
おかげで私の高すぎる防御力も無効化された。
血を垂らして完了。今度この針売ってないか探そう。
「はい、出来上がりました! このカードは失くさないようにしてくださいね。もう一度作るのには手数料がかかりますので」
「分かりました」
早速職業を確認しに向かう。
ステータス的に使いやすそうな職業は……攻撃回復両方が出来る賢者系、素早さが上がる盗賊系、打たれ強い戦士系かな。あ、技能系の魔物使いもいいかも。使い魔の能力が上がるって。
個人的には双剣士をやってみたいけど、これって攻撃特化なんだよね。
素早さは盗賊程上がらないしね、魔物討伐でしか使わなそう。
それに、元々のステータス+職業ごとの追加ステータスだから強くなる一方だし。
レベルも各職業ごと上げれるみたい。初めは、登録する前のレベルか。
あ、各職業ごと専用スキルがあるみたい。面白そう!
そうやって楽しんでいると、お決まりと言うかなんというか……若い男性の冒険者さんが絡んできたり。
初めはね、注意してくるだけかなと思ったけど、明らかに絡んできていたから。
「おい嬢ちゃん。冒険者はなあ、嬢ちゃんみたいな弱っちい奴には出来ないんだよ」
「へ?」
怪訝な声を出すのも仕方ない。だって、鑑定眼Sを持ってるのかと思ったから。
でも、私が鑑定を使っても彼にそんなスキル無いし……?
うーん、と考えていると、突然胸倉をつかまれた。
「おい、聞いてんのか!?」
なんか、脅されてるっぽいけど怖くないから一応訊いておく。
「え、あの、鑑定眼持ってます?」
そしたらキレられちゃった。
「あ!? 馬鹿にしてんのか! 決闘だ!」
今のどこに馬鹿にする要素が?
あと、決闘ってあったんだこの世界。
受付嬢さんとか周りの冒険者さんとか顔面蒼白で目の前の冒険者さん……名前は見ちゃったからディーンさんを宥めようとしてるし。
決闘は面白そう。受けよう。
「えっと、決闘は受けます」
「ここは物分かりがいいじゃねえか」
そしたら、受付嬢さん含む周りの人に思い切り慌てられた。
「やめておけ! あいつはレベル七十の重戦士だぞ! ランクもBだ!」
「重戦士は戦士系の最高職よ! 攻撃力も高いし!」
「えっと、じゃあ彼の防御力って分かります?」
私のその問いに答えたのはディーンさんだった。
「俺は防御力三十万超えだ! 攻撃力は三十五万はあるぞ。どうする? 怖気づくか!」
「あ、じゃあ大丈夫です」
「受けないということか」
「いえ、受けます。三十万あれば耐えれそうなので」
ディーンさんは一瞬勝ち誇ったような表情になり……すぐに怪訝そうな表情へと変わる。
私の方は、何言ってるんだこいつと思われているっぽい。
だってこれ、私のステータス基準で言ってるもの。あんまり防御力がなかったらどうしようと思った。私の攻撃に耐えられないからね。
ディーンさんは復活も早かった。
もう勝ち誇ったような表情に戻ってる。
「じゃあ決まりだな! 俺は寛大だから嬢ちゃんがどんな手を使おうと許してやるよ」
「いえ、そっちがフル装備でお願いします」
ディーンさん含む周りは呆けた表情になる。
ディーンさん以外はどこか青褪めているんだけど。
「後悔はないんだな? 俺は全力で行くぞ?」
「無いです。あ、私が勝ったらもう新人さんたちに絡まないでください」
スキルリンクは解いてないからね。コクのスキル、『覚り』を使わせてもらってる。
その結果、この人が何度も新人冒険者に対して絡んでいる事が判明したのだ。
「オーケーだ。俺が勝ったら、お前は冒険者を止めて、今使っている装備も全て俺に渡すんだ」
あらー、結構一方的。
ディーンさんは本気で勝てると信じ込んでいるようだ。
人のこと言えない私もだ。彼が強い冒険者なら、スキルをどうやって使ってくるか分からない。
「あの、いつ決闘を始めるんですか?」
「じゃあ三十分後だ! 三十分後、この町の外の平原でな」
「分かったわ」
ディーンさんはギルドの外に行った。
準備するつもりかな。
そして未だに青褪めている人たちに囲まれた私の所へは、見ていたらしいコクとハクがやってくる。
「あまり本気を出さない方がいい。見たところ普通のやつらしいからな」
「どうしようか考えてる。新人冒険者さんたちに絡まないって取り付けたから、勝たないとね」
「職業は?」
「考える」
緩い会話だ、コクが殺気を放っている以外は。どうやらディーンさんに対して怒っているらしい。
その後、私のステータス事情を知らない人たちに本気で止められた。
行ったけどね、約束の場所。