各地を巡ろう
さて、朝ご飯も終わったし……行くか。
「じゃ、行ってきます」
「気を付けてくださいね!」
クリスティーネちゃんは今日も元気。
コクに彼女を任せて、私はハクとエストレイラル王国を目指す。
先にセントリアに寄るけどね。
夜には帰って来るけどね。
さて、森を出るまでは浮遊魔法で移動。
森を出たら、目立つので走るだけ。
セントリアの首都に近づいたら、歩く。
これにしたら、安全にセントリアの首都に着いた。
首都ヴィスマスというらしい。
「あー、やっぱりピリピリしてるわね」
戦争中だしね。
兵士がよく目につくのは、多分逃げたクリスティーネちゃんを探しているからかも。
まあ、一度行ったことのある場所には瞬間移動で行けるし、もう行くか。
で、町を出ようとしたんだけど……。
「おい、止まれ!」
兵士に呼び止められる。
「何ですか?」
「その獣人はこの国に残れ!」
いきなり訳分からないことを言われる。
「何でですか?」
「犬系の獣人は、今我が国が金貨三枚で買ってやろう!」
「え? お断りです」
そう言って町を出ようとして……兵士に取り囲まれた。
「……何でそんなに?」
何となくわかるけどさ、犬系の獣人って言っているあたり。
クリスティーネちゃんを探し出すためね。
「犬系の獣人は力づくでも手に入れろとの命令だ! 命が惜しかったら引き渡せ!」
「だ~か~ら! 渡さないって言ってるでしょ!」
昨日覚えたばかりの幻影魔法を使って、私達の今いる場所に幻影を作る。
私達の姿が見えなくなったところで、浮遊魔法で空から逃げる。
いつ気付くかな、あの兵士たち。
まあ、喋らないしすぐ気付くだろうけど。
さあて、このままエストレイラル王国に向かいますか!
「……常識を外れた魔法を使っていることがばれるぞ」
「いいのいいの! 気にしない!」
浮遊魔法は速いから、すぐに着くしね。
町が見えてきた辺りで地面に降りて、走って向かう。
あとちょっとで町、というところで電話がかかってくる。
『襲撃者です! 来てください!』
「分かった! すぐ向かうね」
瞬間移動ですぐに帰る。
襲撃者は、黒づくめが五人。
狼の姿でコクは戦ってる。
「お待たせ、コク!」
『サクヤ様!』
防御結界を発動させて、とりあえず襲撃者たちを閉じ込める。
「な、なんだこれは!」
「おい、魔法で攻撃しろ!」
「あ、待って! それ魔法も跳ね返す!」
跳ね返すは嘘だけど、急いで補足を。
そしたら襲撃者たちは一気に青褪めた。
「ば、万能結界だと!?」
「なんなんだよこいつら!」
「くそっ! 王女も捕らえられねえしよ!」
そんな襲撃者たちに質問を。
「ねえ、あなたたちはセントリアの人たち?」
「誰が言うか!」
「じゃあエストレイラル王国の人たちね」
「何だと! 誇り高きセントリア民の俺たちにをエストレイラルの蛮人たちと間違えるとは!」
「セントリアの人たちね。じゃあ、バイバイ」
襲撃者たちをまとめてヴィスマスに送る。
荒らされたリビングを綺麗に整えて、終了。
「ふう。全く、随分と強者がいるのね」
あの森を越えてくるとは。
魔法を使って入り口を誤魔化しとけばよかったかな。
あとは、木じゃなくて土を固めたやつにするとか。
両方にしておくか。
「さて、と。クリスティーネちゃん、王都だっけ? そこまで行ってきたんだけど、行く?」
「はい! お願いします!」
部屋を荒らされたらたまらない。
入口を誤魔化してから、王都の所まで瞬間移動する。
残りの距離は歩いて王都へ。
門の所の兵士がこちらに気付いた。
「お……王女様! クリスティーネ様!」
兵士にも、ケモ耳があった。
エストレイラル王国は獣人の国らしい。
セントリアの人たちは人間みたいだったし、見下してる感じかな。
っていうか兵士が集まってきちゃった。
「おお、クリスティーネ!」
「お父様!」
ちょっとまて、お父様だと?
視線を向けると、少し豪華な服を着た、クリスティーネちゃんと同じ色彩で同じケモ耳の男性が来ていたり。
後ろからは、キチッとした服の獣人も来てる。あれ絶対王様と宰相様だ。
逃げないと……っ!
少し遠くに行って、瞬間移動で帰る。
でも間に合わなかったっぽい。
「ほう、瞬間移動ですか」
宰相様、ついてきてた。
ギリギリで、腕を掴まれてたようだ。
「えーと、ついてきちゃって大丈夫なの? 宰相様……ですよね?」
「ええ、そうですよ。ルイーゼと申します。以後お見知りおきを、サクヤ殿」
もう名前ばれてるーっ! 鑑定眼使われてる!
「えーっと、じゃあコクとハクの事も分かるのかな?」
「凄いですね、上位種の魔物が使い魔とは」
「ばれてたーっ!」
「貴女も鑑定眼Sを持っているでしょう?」
「そこまでばれてたーっ!」
泣きたくなる……! 泣かないけど。
「……絶対に、私のステータス言わないでください」
「それは約束しましょう」
宰相様のステータスも見させていただこう。
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ルイーゼ・オリベイラ レベル263
フェレ種(獣人)
HP 1,123,600
MP 1,230,900
SP 1,201,300
攻撃力 1,275,200
魔力 1,283,100
防御力 1,210,700
素早さ 1,300,800
固有スキル
幻覚耐性B
精神異常耐性B
鑑定眼S
追加スキル
短剣術
木魔法
光魔法
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……なるほど、クリスティーネちゃんが王国最強と言っていた意味が分かる。何よこの強さ。一人でハクもコクも余裕で討伐できるんじゃない?
フェレ種……フェレット? フェレットってイタチの仲間のあれ?
耳は小さめで三角のような丸いような感じ。白い髪に紅い瞳であるあたり、アルビノに当たるのかな?
いやそれより。
「……宰相様、強いですね」
「昔は冒険者をやっていましたので」
この強さに何となく納得。
「で、宰相様。帰らなくていいんですか? 王国に」
「エストレイラルでの貴女の評価は、『王女を助けた人間』ですよ? どういう状況だったのか訊くのが、上層部としての役割です」
「…………」
さ、宰相様……むむむ……
「……あ、そうだった」
詠唱があった方が確実なんだけど、イメージすれば問題ない。
「ごめんなさい」
一言謝って、宰相様はエストレイラルに送る。
初めからこうすればよかったかもしれない。
「……さて、と。野菜買ってこよ」
セントリアは無理ね。あんな事したし、コクたちを連れていけない。
エストレイラルは……宰相様が怖い。
「ねえ、この世界にはセントリアとエストレイラルの他に、どんな国がある?」
「買い物でしたら、商業国クレイの首都、トゥルエストがいいかと」
「金は空鳥でも売ればいいんじゃないか?」
「ああ、そうしよ。……ねえ、クレイってどこ、トュルエストってどこ」
スキルリンクで瞬間移動を覚えてもらおうかなぁ。絶対に二人が覚えた方がいいスキルよね。
「トュルエストはここから北西だ。王都ガリエラと同じくらいの距離だな」
「あ、じゃあ自分で行こうかしら。二人がいても大丈夫よね、その国」
「クレイは共和国みたいなものですからね。様々な種族がいますよ」
よかった。じゃあ大丈夫そうね。
「じゃあ、行こっか」
外に出て、北西に向かって飛んでいく。
割とすぐに見えてきた。遠くから見ていても活気がありそうな町。
馬車の行き来もよくある。近くに海もあるみたいだし、本当に商業国って感じ。
馬車に見られてもまずいので、結構早く降りることになった。
ステータスリンクすれば、普通の人には見えなくなるくらいには素早く走れるはず。
「じゃあ、行くよ。『ステータスリンク』」
キラキラキラ………
リンク出来たところで、走る。
問題はない。出来てる出来てる。
馬車とは何度かあったけど、私達の事は『突風』くらいしか思っていないはず。
そうこうしている内に、首都トュルエストに到着。現在夕方。
夕方なんだけど……市場はまだまだ物凄い活気だった。夜まで続いてそう。
肉屋はないかしら。そこなら空鳥を売ってもいいと思う。
「あ、あったあった」
肉屋発見。早速空鳥を売ろう。
「すみませーん」
「いらっしゃい」
店主はごついおじさんだった。武器屋とかやってそうな。人間。
「お肉買い取ってもらえますか?」
「腐ってなければね。どんな肉だい?」
「これ」
ポーチから空鳥の肉を取り出す。
あ、店主さん虫眼鏡使ってる。
鑑定で見てみると、『鑑定眼B』の魔法付与のされた虫眼鏡だった。
周りの店にも置いてある……そっか、Bだとこういうものの種類が分かるのか。
感心していると、いきなり店主さんが叫んだ。
「ああああああっ!?」
「わっ、びっくりした」
勿論、周りの人はこっちを向いた。
店主さん、なんかぷるぷるしてない?
「嬢ちゃん……空鳥持ってきたのか……?」
「えっと……うん、そうですよ」
「「「「「「「えええええええっ!」」」」」」」
周り煩い。
でもまあ、当然なのか。
あ、コクもハクも呆れるなっ! 私の使い魔でしょうがっ!
「こりゃあ一〇〇グラムあたり金貨一枚相当だぞ……すまねえが嬢ちゃん、うちにはそれだけの金が無いんだ。買い取れるのは六〇グラムになっちまうがいいか?」
「いいですよ。お金が必要なだけですし」
店主さんは六〇グラム計って、私に銀貨六〇枚をくれた。
一グラム当たり銀貨一枚? すごい値段なんじゃない?
「ねえ二人とも。この世界のお金って、何が幾つで銀貨になる?」
「銀貨一枚に付き銅貨百枚だな」
「割と安価なホーンラビットの肉は、百グラム銅貨三枚ですよ」
「うわあ、空鳥って高い」
六〇グラムで一羽の両羽だけだったんだよね。これがあと三〇羽入ってることは内緒にしよ。
コッソリとハクに話しかける。
「私、世界の流通が混乱するくらい空鳥持ってるのね」
「やめろ、全部売るのは」
売るわけないでしょ! アイテムポーチに入れておけば傷まないから時間かけて売れるし。
っていうかさっきから周りの視線が痛いな。空鳥売ったからかなー……。
「今度リバーフィッシュ持ってこようかな……」
「ヒレ一つで歴史的発見になる。やめろ」
ああ、その通りだねハク。確かに、図鑑にも載ってない魚だったね。
空鳥よりダメか。
「ローゼンピーチやレッドベリーは?」
「それも結構希少な果物ですよ。空鳥ほどではありませんが」
なんなんだあの荒野と森! あと川!
小声で話してるから、周りの人には聞こえてない。……と願いたい。
っていうか本命を忘れるところだった。野菜、野菜。
「あ、あったあった。すみませーん、どの野菜がおすすめですかー?」
ここの店はおかみさんか。ケモ耳ついてるし、獣人だな。
「そうねえ……コールレタスはどうだい?」
おかみさんの指さした野菜を見る。
コールレタス。その名の通り、キャベツみたいなレタスみたいな野菜だった。
どっちとも割り切れないあたり、異世界。
「へえ……美味しそう。じゃあ、これください」
「まいどあり。他には何か買うかい?」
「えっと、このスパイスキャロルって何ですか?」
見た目は人参。
真っ赤だけど。
「スパイスキャロルは、香辛料とかに使われる野菜だよ」
スパイスってつくくらいだしね。スパイスって香辛料だし。
認識は唐辛子でいいと思う。
お肉やお魚にかけたら美味しそう……。
「じゃ、これもください」
「まいどあり」
パスタみたいなのないかな。
店をあとにして、市場をまた歩く。
「ねえ、二人は何か欲しいものある?」
「うーん、特には」
「無いな」
まあ確かに、あの二人は十分強いもんね。
「あ、ここ」
パスタっぽいものを売ってる店発見。
で、商品を見てみたら……スパゲッティとかマカロニとか、そういうものを売ってる店だった。
ふざけているわけではない。ほんとに、商品には『スパゲッティ』や『マカロニ』とついていたのだ。翻訳効果かな?
パンも売ってるけどね。寧ろそっちがメイン。
「いらっしゃい」
「スパゲッティと、あとこのパンください」
「へえ、お客さん珍しいね。スパゲッティ選ぶって」
小さな女の子が店をやってる。親は……あ、向こうの方でパン焼いてる。
「スパゲッティ買う人、珍しいんだ」
「みんなパンだけを買っていくからね。スパゲッティを選ぶ人なんて、極々少数。顔を覚えられるくらいにはね」
前の世界では常識レベルで有名だったんだけどなー、スパゲッティ。
「何でみんなスパゲッティ選ばないんだろ」
「味が地味だからかな。固いし。私達も、ある人のお願いで売り物にしているわけだし」
「茹でるといいんじゃない? 柔らかくなるから」
「! なるほど、その方法があった! ありがと、お客さん!」
女の子は近くにあった鍋に魔法で水を作って入れて、炎の魔法で沸騰させたらスパゲッティを入れていた。
「売り物じゃないの? 使っちゃって大丈夫?」
「あたしのお小遣いから出すわ。どうせ、売れ残っちゃうのがオチだもの、スパゲッティ」
沸騰させたお湯の中にスパゲッティを入れて、茹でていく女の子。
六分経ったら、柔らかくなってきたっぽい。
「そろそろいいかな、出しましょ」
女の子はお湯を捨てると、スパゲッティをお皿に盛りつけた。
「柔らかくなってるみたい!」
「あ、ナイフ持ってる? スパイスキャロルを削ってかけたら美味しいかも」
「持ってるわ」
女の子にナイフを貸してもらい、スパゲッティに削ったスパイスキャロルをかける。
ナイフは作ってもいいんだけど、そんなことしたら非常識な魔法がばれる。
さて、その頃には興味を持ったらしい通行人の人たちがたくさん来ていた。
「試食してもらったら?」
「ええ、そうするわ!」
女の子はそのギャラリーたちに出来上がったスパゲッティを配っていった。
「なんだ美味い!」
「これは何だ!?」
「スパゲッティです。お湯で六分ほど茹でたんです。かけてるのはスパイスキャロルですよ!」
「よし、スパゲッティを買おう!」
「ずるいぞ、俺が先だ!」
「私よ!」
「わ、ちょっと並んでください!」
混んできたため、私達は足早にその場から離れることを選んだ。
「あ、ちょっと待ってください!」
女の子に呼び止められた。
「ありがとう、お客さん! 名前、聞いてもいい?」
「私は咲耶。あなたは?」
「あたしはルーナ! これからもうちの店をごひいきに!」
「そうするわ。でも、これから忙しくなるんじゃない?」
ルーナちゃんのお父さんとお母さん、パン焼くの中断してお客さんの相手してるし。
「にぎわったのはサクヤさんのおかげです! ありがとうごさいました!」
「じゃあね、ルーナちゃん」
「はい!」
歩き出す。
後ろを少し振り返ってみたら、お店は非常にお客さんで賑わっていた。
「……サクヤ様は凄いですね。発想が柔軟で」
「えーと、うん、そういうことにしておく」
ほんとは前の世界の知識があるからなんだけど。
「さてと。買うものは買ったし……帰ろっかな」
「そうしましょう」
人通りの少ない道に入る。
で、誰もいないのを確認。
「……よし、いない。『瞬間移動』」
パッと景色は変わって、家に到着。
今日はスパゲッティにしましょう。お魚もあるしね。
お鍋は作ってある。
水を張って、火をつけて沸騰させて、スパゲッティ入れて……六分かな。
その間にお魚を取ってきて捌いて、これは焼いておく。
「あ、スパゲッティ出来た」
お湯はスパゲッティと分けた後蒸発させる。
シンク作んないと。
パスタをお皿に盛って、焼いたお魚をほぐしてかけて、削ったスパイスキャロルもかけて。
「完成ーっ!」
夕ご飯っ♪ 夕ご飯っ♪
「わあっ、美味しいですね!」
「驚いたな、こういう食べ方があるのか」
「スパゲッティ見つけた時からやってみたかったんだよねー」
リバーフィッシュ、これはブルーの方。
食べ終わった後片づけて、各自自由行動に。
別に寝てもいい。
私は……一旦外に出た。
星が見たかったからね。
「星キラキラ……スターダストっていう魔法作ろうかな。攻撃魔法で」
いや、やめておこう。
スターダストって星屑って意味だけど、私がやったら隕石になりかねない。
明かりをつけるだけの魔法にしようかな、付加限定でプラネタリウムとか。
その時、突然視界が暗転した。
次回から新章です。