狼の使い魔
「え、どういうこと?」
『ですから、私をあなたの使い魔にしてほしいのです』
「ごめんね、使い魔って何?」
『使い魔というのは、契約し従えた動物や魔物の事です! 使い魔は、主がいつでも召喚できるようになる他、稀にスキルやステータスを共有する事が出来るようになるんです!』
「なるほどねー。いいよ、契約するにはどうするの?」
『主となる者の血を私が飲めばいいのですが……』
「あああ、難しい」
さっき頑張ってあれだったからね。一滴血を流すのに労力はどれくらい必要か。
アイスソードなら何とかなるかな……
『お前、使い魔になるだと!?』
あ、白い方が我に返った。
『ええ』
黒い方、あっさり肯定した……
『人間に服従するのか!』
『あんなに凄い力を持っているのにですか? あなたも好きでしょう、ああいう人』
『…………』
『私達二匹とも契約してしまいましょうよ』
『こうなったらお前は止まらないからな……分かった。俺も使い魔になる』
なんか最後あっさりねえ、白い方。誇りみたいなの持ってるかと思ったけど。
私は……腕切るの頑張るか。いや、好きなわけじゃないんだけどね。
私の周りに防御結界を張ってと。これで風はこの中だけなはず。
アイスソードで腕を切りつける。
私の周りだけに風が吹き荒れ……さっきよりはマシ、程度の傷はついた。
何度かそこと同じ所を切りつけたら一滴だけ血は出てきたけどね。
「ごめん、これ舐めて」
腕を見せて、先に黒い方に舐めさせる。
すると勝手にステータスが出てきて、項目が一つ追加された。
成功かな?
「これで契約って完了?」
『はい。使い魔のステータスは、主も見ることが出来るようになります』
「へえ……なんかこの世界って凄い。次は白い方ね」
もう一度切って血を流して、白い方に舐めさせる。
ステータスにもう一つ項目が追加された。契約完了。
「さ、確認させて。……あれ、名前がない。どうして?」
『俺たちに名前が無いからだな』
「名前が?」
黒い方にも視線を向ける。
頷き返された。
「じゃあ、私がつけさせてもらうわね。えっと……黒い方がコク、白い方がハクで」
黒と白の音読みなだけだけど、気付く人はいないはず。だってここ、異世界だから!
『私がコクですね』
『俺がハクか』
あ、ステータスに名前が追加された。
確認しよう。
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コク レベル28
ダークウルフ(魔物)
HP 156,200
MP 253,600
SP 102,200
攻撃力 129,100
魔力 270,800
防御力 199,400
素早さ 293,000
固有スキル
闇属性
状態異常耐性A
攻撃魔法補正
追加スキル
獣人化
覚り
スキルリンク
ステータスリンク
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ハク レベル28
ホワイトウルフ(魔物)
HP 162,100
MP 101,100
SP 205,000
攻撃力 290,800
魔力 96,700
防御力 253,000
素早さ 296,200
固有スキル
光属性
状態異常耐性A
身体強化補正
追加スキル
獣人化
スキルリンク
ステータスリンク
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ううむ、これは凄いのか凄くないのか。一般人ってどれくらい?
それにしても、スキル……
「ねえ、闇属性とか光属性とかって何?」
『無属性攻撃がその属性になったり、その属性の攻撃が効きにくくなります。私の場合闇属性なので、攻撃が闇属性になりますし、闇の魔法は効きにくいです。ただ、反対の光属性の攻撃が効きやすくなりますし、光の魔法を扱いにくくなります』
「何となく分かったわ。じゃあ、獣人化って何?」
「こういうスキルです」
ステータスから目を離してコクの方を見て、絶句。
だって、狼の耳と尻尾のある黒髪で紅い瞳の青年がいたから。
「え、もしかして……コク?」
「はい」
「『獣人化』はそのままの意味だ」
あ、ハクもなってる。こっちは白い髪と紫の瞳だ。
二人ともかなり容姿端麗な方じゃない?
そういえば、前の世界でも『美形が仲間』っていうのはよくあったな。まさか、自分が体験することになろうとは。ハクもコクも魔物だけど。
っていうかこれって二匹って呼べばいい? 二人って呼べばいい?
……本性の狼の姿の時は二匹でいいか。獣人化のスキルを使ってる間は二人で。
「ねえ、二人とも上位の魔物だったりする?」
頷かれた。
「ホワイトウルフもダークウルフも上位の魔物ですよ」
「俺たちは若いが、その中でも力があるからな」
「うわあ……物凄いの使い魔にした……」
私に比べたら弱いんだけど、それは私がとんでもなくおかしいだけか。
いや、おかしいっていう自覚はあったけど。ここまでとは……
「あ、スキルリンクとかステータスリンクは何?」
「主と使い魔のスキルとステータスを、その名の通り共有させることです。………えええっ!? 両方出たんですか!?」
コクは自分のステータスを確認したらしく驚いていた。
っていうか魔物なのにステータス見れるんだ……
「その驚きようは、普通はどちらか一つってこと?」
「どちらかが出るのも稀なんですよ!」
全能神の加護か、それとも私が幸運なだけか。
恐らく前者ね。どちらかがでれば幸運になるんだから。
でも、コクのスキルは使ってみたかったし丁度いいかな?
「ってそうじゃない、夕ご飯を作らないと。二人は果物取ってきてくれる? ローゼンピーチとレッドーベリーを三個ずつ。木はそこにあるから!」
「分かりました。三つずつですね」
「玄関には旗を立てておくから。そこから入ってね」
二人は木の方に向かっていった。
私は作った旗を入り口に立てると、水槽からリバーフィッシュズをそれぞれ二匹ずつ取り出す。
キッチンに瞬間移動して、魚は全部捌いていつも通り焼く。
「……醤油とかないかな」
煮魚も作りたい。
そこに、コクとハクとが来た。
「お帰りー。果物はテーブルの上に置いといて……どしたの?」
「……どうなってるんだこの家は」
「?」
「いえ……魚の入っている壁ですが、どの町でも見たことがありませんから」
ああ……水槽。これもこの世界に無いのか。
「これは水槽。っていうか二人とも、どの町でもってことはどこかの町には行ったことあるのね?」
「たまに各国の町に行くことがある」
なるほど。獣人化出来るものね、この二人。
イザヤとの会話からして、この世界に獣人はいると思う。
町に行ったときにこの二人に案内頼もうかな?
「あ、魚は焼けたから食べましょう。……そういえば魚って食べれる?」
「魔物は雑食です。肉を好む傾向にありますが」
「へえ。じゃあ今度あれも狩ってこようかな」
あれとはももいろウサギのこと。今は空鳥で満足してるけど。
ちゃちゃっとハクとコク用の食器も作って、お皿に魚を乗っける。
そしたら二人が、怪訝そうな顔をした。
「……また私何かやらかした?」
「これ………見たことのない魚ですね。スイソウに入っていた物というのは分かりますが……」
「これ、近くの川で捕ってきたの」
「なんていう魚だ?」
「赤いのがリバーレッドフィッシュ、青がリバーブルーフィッシュ」
「「え」」
魚もか。
これまで異常種なのね。なるほどね。
「ねえ、どういうお魚?」
「その魚……人の間では幻の魚と言われているそうです。本にも絵は載っていないので、いるかどうかすら分からない魚だったと思いますが……」
「いきなり実物を見ることになるとはな」
「水槽の時点で気付かなかったんだ?」
「別の魚に似ているのですよ。ですがその魚は焼いたりすると色が変わる魚ですから」
そういうことか。
まあ、これでこの辺りで捕った物が美味しい理由が分かったけど。
シンプルな味付けしかしてないけど、素材が豪華な夕食はその後も続くことになる。
どうせなら料理上手な人に使ってもらいたいものね。